『古見さんは、コミュ症です。』に込められた生きていく上での希望 演出・瑠東東一郎に聞く

『古見さん』演出・瑠東東一郎インタビュー

想像を超えた爆発をどうやって起こすか?

――『古見さん』を演出する上で一番大事にしていることは何ですか?

瑠東:うまくいかない部分を抱えている人たちが全力で生きている姿を描くことです。

――片居くんを演じる溝端淳平さんが極端な顔を作っている場面は、そのシーンだけ抜き出すとギャグなんですけど「無理しなくていいですよ」と只野くんに言われる場面は、妙に切なくて、愛おしくなります。

瑠東:笑える場面も狙ってこれ面白いですよね、とやっているワケではないんです。全力でやり切る。笑いと涙は常に表裏一体で、キャラクターを演じる役者が全力で生きている部分がズレて面白く映れば笑いになるし、気持ちがぶつかり合えば感動になる。

――登場人物の内面に深く入り込んでいく時もあれば、俯瞰した視点からナレーションで語る時もあって、距離感が自由自在に変わりますよね。演出のリズムはどのように組み立てているのですか?

瑠東:当然、事前にあらゆる演出プランは考えるのですが、現場でどう流れてどう動くかを見て、その瞬間に生まれたベストをチョイスしていくという感じです。プランを試して良いモノが生まれれば使いますし、それを試す必要が無い場合もあります。

――予想外のものになることはありますか?

瑠東:なるべく予想外のものを作りたいと考えています。あらゆるプランを想定して現場に入るのですが、プランどおりに進めていくと、僕らの頭の中にあるものしか撮れないんですよね。だから、プランは練るだけ練って考えるだけ考えたら、あとは「偶然を起こす」ということですね。それを必然にすることが大切なんだと思います。凄く難しくて毎回毎回苦しんでやっている所なんですが。

――俳優さんは「台詞を全部覚えたら一度忘れて、あとは現場で対応する」とよく言いますね。

瑠東:僕らもプランは決めていくのですが、彼らが演じたら「もっと、違うものになるはずだ」という可能性を信じて現場に向かいます。芝居の中で台詞の意味が高まっていく時もあれば、そうでない時もあるのですが、想像していたものよりも“爆発した表現”を作り上げることが凄く大事だと考えていて、その(現場で生まれる)偶然性に人は笑ったり感動したりするのだと思います。コメディって、その瞬間に生まれる笑いの方が、絶対おもしろいんですよね。全部決めて進めていくと、プランどおりの笑いにはなるけど爆発はしないんですよ。より面白くするために、どうやって「偶然を起こす」かが、演出にとっては大事だと思います。もちろんそれはコメディに限らず言えることです。

――ドラマだからこそのアプローチですね。

瑠東:やはり、生身の人間が演じていることが大きいのではないかと思います。僕自身も想像し得ないことが対人では起こるんですよね。それは役者の演技だけではなくて、むちゃくちゃいい画が撮れる可能性にしてもそうですよね。最初は想定した画を狙うんですが、そこに太陽の日差しが良いタイミングで来たとか、カメラマンの閃きやテンションで何倍も膨らんだ良い画が撮れる予想外が起きる。みんなの気持ちが高まっていけば、いろんな奇跡が起こると思います。そういう現場作りも監督の大事な役割だと思います。

「やっぱり“人って良い”じゃないですか」

――本日、第6話が放送ですが、今後の見どころについて教えてください。

瑠東:最終話に向かう中で古見さんと只野くんの気持ちが、すれ違って行くんですよね。その中で人間関係もより深まっていきます。第6話では、城田優くんが演じる成瀬詩守斗という、更にヤバい奴も登場して、彼がまた状況を引っ掻き回していく。でも、引っ掻き回される中で、彼らの本心がより明確化していき、ドラマが動いていきます。

――10月からアニメもはじまり、相乗効果で『古見さん』が盛り上がっていくかと思います。

瑠東:ありがたいことです。

――よるドラで演出することについては、どう思われましたか?

瑠東:いろいろな意味で、チャレンジすることが許されている志の高い枠だと思います。「よるドラ」は、作品性を尊重してくださる制作陣なのでなおのこと、いろんな人にこの作品のメッセージがまっすぐに届くように、濃度を強めて演出しています。

―― 『古見さん』を観て、かつての自分が救われたような気持ちになったんですよね。友人とのコミュニケーションについての悩みは、自分の中ではすでに完結した問題ですが「10代の頃の自分に見せてあげたい」と思いました。だから世代によって響き方が違うと思っていまして。特に高校生にとってはコロナ禍で学園生活がままならない状況だからこそ、特別な作品になるのかなぁと思いました。

瑠東:それは本当に嬉しいです。リアルな高校生の世代にとってコロナで奪われた時間は、僕らの時間とはワケが違います。僕らが何かを出来るなんて大それたことは言えないですが、この作品が少しでも“何か”になれればこれ以上のことは無いです。

――学生の日常も以前とは大きく変わってしまい、息苦しいことも多い日々だと思うのですが、今、学園ドラマを作る中で思われたことはありますか?

瑠東:コロナ禍の影響で、人と人の関わりが希薄になっているからこそ、強く思うのかもしれないですが、やっぱり「人って良い」じゃないですか。生きるのが不器用な人でも、人によって前に進めたり、人を愛して愛されることで救われることがたくさんあると思います。『古見さん』を観て笑ったり、人の愛に触れて「もうちょっとがんばろう」と思っていただければ。クランクイン前、正にこんな話を増田さんと深く長くしました。おっさんたちの暑苦しさが届いてくれれば最高ですね。

■放送情報
よるドラ『古見さんは、コミュ症です。』
NHK総合にて、毎週月曜22:45~23:15放送(全8回)
出演:増田貴久、池田エライザ、吉川愛、ゆうたろう、筧美和子、大西礼芳/城田優
語り:高橋克実
原作:オダトモヒト
脚本:水橋文美江
音楽:瀬川英史
主題歌:aiko「あたしたち」
制作統括:樋口俊一(NHK)、高城朝子(テレビマンユニオン)
プロデューサー:大沼宏行(テレビマンユニオン)
演出 :岡下慶仁(テレビマンユニオン)、石井永二(テレビマンユニオン)
総合演出:瑠東東一郎(メディアプルポ)
写真提供=NHK

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