美波、加瀬亮、青木柚 『MINAMATA―ミナマタ―』を世界に届ける俳優たちの功績

 真田広之、浅野忠信、國村隼、岩瀬晶子など、日本を代表する俳優が数多く挑んだジョニー・デップ主演作『MINAMATA―ミナマタ―』。本作は、世界的な写真家であるユージン・スミスと当時の妻が、1975年に発表した写真集『MINAMATA』を原案に映画化したもの。日本の公害病である“水俣病”の実態と、それを取り巻く諸問題を世界に伝えるため、ジョニー・デップ演じるユージン・スミスはカメラを片手に闘う。日本が主な舞台の作品とあって、やはり日本にルーツを持つ俳優の存在が重要になってくる。本作に登場するすべての俳優に賛辞を贈りたいところだが、ここでは、美波、加瀬亮、青木柚の功績について述べておきたい。

真実を世界に訴えるべく奔走するアイリーン(美波)

 本作において、ヒロインともいえるポジションにあるのが、美波演じるアイリーンだ(後にアイリーンは、ユージンの妻となる)。そして何よりこのアイリーンこそが、ユージンと水俣の関係を繋ぐ役割を担っている。写真家としての栄光はすでに過去のもの、酒に溺れて荒んだ生活に身を落としていた彼の元を、アイリーンが訪ねるのだ。チッソ工場が排出する有害物質によって苦しむ、熊本・水俣の人々の姿を撮影してほしいーーと。彼女は水俣の案内人として、通訳として、そして、ユージン自身の問題や、現地で直面する問題に対して葛藤する彼の良き理解者として、アイリーンは寄り添うのである。

 “通訳”を演じた美波といえば、やはり記憶に新しいのが河瀬直美監督作『Vision』(2018年)での好演。あの作品では、奈良・吉野の森を訪れたフランス人エッセイスト(ジュリエット・ビノシュ)の付添人を務めていた。異邦人と自然の触れ合いを描いた同作において、主張しすぎず、かといって控えめでもない、どちらにも属さない美波の立ち位置が印象的で、あれは観客に何を見せるべきか(知らせるべきか)を深く理解してのポジショニングだったのではないかと思う。デビューから長らくは話題性の強いドラマや映画作品に多く出ていた彼女だが、それと並行して日本を代表する演出家の演劇作品などにも早くから参加しており、現在は日本にとどまらずグローバルな俳優活動を展開している。今回のアイリーン役は、美波自身のその闘志をより世界に向けるきっかけになったのではないだろうか。

未来を変えるため立ち上がるキヨシ(加瀬亮)

 本作でカメラを手にするのは、ユージンだけではない。自身も水俣病患者の一人であり、子どもたちのためにも未来を変えようと現状の記録を残すためにフィルムを回すのが、キヨシという青年だ。演じているのは加瀬亮。症状である手の震えをどうにか抑えつつ、カメラを構え続ける姿が強く印象に残る。水俣を訪れたユージンを介して世界に苦しみを訴える一人であり、自身もユージンらとともに共闘する存在である。國村隼が演じるチッソの社長のせめてもの真摯な対応を求め、キヨシが身を挺して詰め寄るシーンは、多くの観客にとって忘れがたい瞬間として刻まれたのではないだろうか。

 そんな加瀬亮といえば、日本にとどまらず、世界的に活躍する俳優の一人だと広く認知されているだろう。デビューは20代後半と早くはないが、黒沢清や熊切和嘉、李相日、北野武らなど、日本が誇る映画作家たちに支持され、ガス・ヴァン・サントやホン・サンスといった海外の監督作品でも重要な役どころに迎えられてきた。とくに今回の『MINAMATA―ミナマタ―』のように、日本人キャストが多数必要となる海外映画には欠かせない存在だ。クリント・イーストウッド監督作『硫黄島からの手紙』(2006年)や、マーティン・スコセッシ監督作『沈黙 -サイレンス-』(2016年)がまさにそうだろう。今回また一つ、加瀬亮の代表作が増えたのではないかと思う。

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