『おかえりモネ』呪縛から解き放たれた百音と菅波 希望とともに“橋を渡る”2人に寄せて

『おかえりモネ』希望と共に“橋を渡る”2人

 モネの下宿先・汐見湯に併設されたコインランドリーで“1300万分の2”の再会を果たした2人。彼らは次第に登米にいた頃とは異なる関係性を築いていく。

 菅波の心の中につねにあるのは、新人時代に患者に寄り添おうとするあまり手術を急ぎ、プロのホルン奏者・宮田(石井正則)の音楽家としての人生を狂わせてしまったこと。「先生のおかげ」との言葉に無自覚に酔い、人ひとりの希望を奪ったことに彼は強い後悔の念を持ち、自分を責めて、必要以上に他者と関わることを避けていた。

 そんな菅波はモネと対峙することで、少しずつ彼女に心を開き、自ら抱えていた後悔や苦しみの感情を吐露するようになる。

 モネと菅波、明確に互いの気持ちを確認してからも会話の7割は敬語でデート(?)の99%はコインランドリーの待機スペース。まるで時が止まっているかのようなその場所で、2人だけの時計を進めていく場面に流れるのはいつも淡く柔らかい空気だった。登米で出会ってから数年、形を変え、時間をかけて大切に築いてきた関係。

 ここまでの2人の集大成のように、東京編のオーラスで描かれたのは、それぞれが自分を責め続けていた呪縛から穏やかに解き放たれるさまだ。

 竜巻の被害を受けた島の人々は、まるで祭りの準備のように家を片付け、汐見湯のボイラー修理に現れた宮田は、幼い息子の前でホルンを吹けたと1度はなくした希望について笑顔で語る。島の人たちも宮田も2人が思っていたよりずっと強くたくましく日々を生きていた。宮田がモネと菅波のために吹いたホルンの音色は、これまで2人が背負っていた罪の意識を静かに溶かしていくようだった。

 東京編でのモネと菅波において、ここまで「橋を渡る」というキーワードで語らせてもらった。「橋を渡る」とはどういうことか。それは「見えている目的地に自分の足で一歩ずつ進んでいくこと」である。存在する高さは変わらないが、視線の先には自分が行くべく場所が見えている。そこに向かって歩を進める。東京と気仙沼、2人が新たに渡ろうとしている橋は違うけれど、それらは必ずどこかで交わるはずだ。

 『おかえりモネ』東京編。じつは劇中、大きな事件や対立を経ての和解、誰かの裏切りといった、ドラマ的にわかりやすい“波”は起きず、モネや菅波、ウェザーエキスパーツ、汐見湯の人々、そしてモネの家族や幼なじみといった登場人物たちの心の変化やそれぞれの小さな一歩が丁寧に描かれた10週間だった。

 あらためて、穏やかでありつつ、観る者の心の深い場所に強く問いかけてくるドラマだと思う。最終回まであと1カ月。罪の意識や義務感でなく、希望とともに橋を渡ったモネの静かな挑戦を見つめていきたい。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK



インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる