『賢い医師生活』は何を描こうとしたのか? 伏線とテーマ、演出の文法から考察

 S1第9話に「世の中や人のことを知った気になっていた」とイクジュンが言う台詞がある。ドラマが映したのは彼らの日常から抜粋したほんの一部分にすぎず、人間関係は偏見と思い込みとステレオタイプに満ちているものだ。ソンファの研究室や医局の小窓から覗き込むようなショット、病院の中庭や階段、喫煙スペースなど、限られた人だけで話している場所を俯瞰から撮るようなカメラ位置はその現れだ。

 同時に、わたしたちもこの才能溢れるドラマクリエイターのことを知った気になっていた。「たくさんのイースターエッグが隠されているはず」「想像もつかない転調を仕込んでくるはず」……それらは全て勝手な思い込みで、まだ彼らが作るドラマの3本半分(『刑務所のルールブック』にイ・ウジョンは企画で参加)を観たに過ぎない。

 イースターエッグと作品のあり方については先述したが、野暮を承知で最後に蛇足の考察をひとつだけ。S1の予告編とイントロに使われている「Start Again」は、勇気を出してもう一度始めてみようと歌っている。

 スタート・アゲイン、つまり復活。S1第1話、5人が再び同じ病院で働き出すのが2019年4月のイースター(復活祭)で、S2第5話、2020年のイースターにはイクスンが髪を切り軍に戻る。S2第8話・9話でジュンワンとイクスンが再会、ジョンウォンの母が青春を捧げたピアノを再開し、ソッキョンがメールを受け救急室に向かい、ソンファが2年ぶりにボーカルに復帰する。これは2021年4月のイースター近辺。この2話には、スタート・アゲインにふさわしくS1第1話とパラレルになっている描写がいくつか出てくる。“仏”のあだ名を持つジョンウォンは、S1第12話でキリストの誕生日に神の子ではなく人間の子になる。ソンファの研究室や診察室のカレンダーはただの小道具ではなく、時系列を明示したいシーンではピントが合っている。ウサギのモチーフや卵の描写もたびたび出てくる。最終話に「目玉焼きがないのは、ただのジャージャー麺だ」という台詞がある。イースターエッグがないドラマは、彼らのドラマではない。蛇足ついでに言うと、イ・ウジョンの事務所名は「エッグ・イズ・カミング」である。

■配信情報
『賢い医師生活』
Netflixにて配信中
写真はtvN公式サイトより

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