劇場版『僕のヒーローアカデミア』6周目にして再び首位に 大ヒット記録の理由とは

 『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション(以下、『ヒロアカ映画3』)』の興行が好調だ。8月6日に公開されて以来、週末の興行収入ランキングで上位をキープし続け、4週目には初の1位を獲得し、6週目にも再び1位に返り咲き、息の長いヒットとなりそうだ。

 本作は『僕のヒーローアカデミア(ヒロアカ)』シリーズの3本目の劇場版となるが、17億円後半止まりだった前作と前々作の成績を大きく超えて、30億円台に迫っている。最終成績は前作の倍以上となるかもしれない。

 前2作と比べて、大きな好成績を生み出した要因は何か。作品の面白さは当然の前提として、それ以外の要因を考えることにする。

地上波とのタイアップと『金ロー』放送

 まず、今回はマスメディアへの露出が前2作と比べておおくなっていた。目立ったところでは、『ヒロアカ』テレビアニメを放送している日本テレビ・読売テレビ系列の人気情報番組『ZIP!』で、メインキャストを務める声優たちが日替わりでナレーションを担当するなどの大型コラボ企画を実施していた。

 放送局とのタイアップを中心に、多くの露出があったようで、プレコグ調べによると、公開前週の2021年7月26日〜2021年8月1日では地上波での映画露出度ランキングで1位を獲得している(https://kiq-report.com/Item/339)。この週は東京オリンピックの影響で、全体的に映画の露出そのものが少なかったのだが、その中でもある程度のプレゼンスを確保していたと言えるだろう。

 地上波展開で大きかったのは、公開同日の8月6日の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で劇場版1作目『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE 2人の英雄(ヒーロー)』が放送されたことだろう。『ヒロアカ』初の『金曜ロードショー』放送となり、多くの人に『ヒロアカ』の名前を印象つけただろう。

 東宝の小野田壮吉プロデューサーも、金曜ロードショーでの放送は「我々の悲願」だったと語っているが、地上波ゴールデンタイムでの放送も興行にはずみをつけたはずだ(参考:【後編】「ヒロアカ」が「金ロー」初放送! 担当Pの宣伝戦略とは? 「僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ワールド ヒーローズ ミッション」 - 読みテレ|読んで楽しいテレビの話)。

 今回の劇場版は、封切り前に公開されたポスタービジュアルなどもインパクトのあるものが多かった。黒いステルススーツを着たデク、爆豪、轟の3ショットのビジュアルは、本編とも、前2作の劇場版とも異なる特別感を感じさせた、攻めたビジュアルが多かった。小野田プロデューサーは「真っ暗な夜の世界にデク、爆豪(勝己)、轟(焦凍)がヘリから飛び降りる構図は、『ワールド ヒーローズ ミッション』ならではの新鮮なビジュアル」になったと語っている。

 ただ、マスメディアでの露出が多かったが、アニメの宣伝は基本的な方針としてコアファンに深く刺さる施策を練るのが大事だ。小野田プロデューサーもアニメと実写の宣伝の違いとして、「アニメは初めからマスを意識するというよりは、その作品自体を愛してくださっている方、大切に思ってくださっている方々に作品をより好きになっていただく施策を大事にします」と強調している通り、本作も無闇な拡散施策を取ったわけではなく、ファンに喜ばれる形でいかにマスも含めた露出を増やしていくかを追求していることがファンのロイヤリティを高めることにつながっているのだ。

配信との相乗効果

 昨年から続くコロナ禍で、動画配信サイトの利用が伸びているというのは、様々なところで指摘されている。劇場映画はその恩恵を受けられるのか、受けられないのかについての議論も活発だ。配信が映画館の客を奪う事例もあれば、反対に『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の大ヒットのように、配信サイトで同シリーズがたくさん視聴されたことがヒットの後押しとなったような事例もある。

 『ヒロアカ』テレビシリーズは、現在第5シーズンが放送中だが、それに伴い動画配信サイトでも『ヒロアカ』の視聴数は上位に食い込んでいる。

 GEM Partners調べによる8月の動画配信マンスリーランキングでは、『ヒロアカ』は『東京リベンジャーズ』と『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に次ぐ3位につけている(参考:『東リベ』『ヒロアカ』『ワイスピ』など夏休みに映画公開シリーズが上位に、アマプラ独占『エヴァンゲリオン』は2位に<定額制動画配信サービス マンスリーランキング(8月度)> - GEM Standard)。ちなみに、7月と6月は2位だ。

 『ヒロアカ』劇場版は、『鬼滅の刃』と異なり、テレビシリーズと物語の繋がりは薄いので、エピソードを復習しておかずとも楽しめるが、配信利用者の広がりによって、『ヒロアカ』のファン層が拡大している可能性は高いだろう。筆者の周囲にも、アニメに興味のない友人がNetflixで『ヒロアカ』を観始めてハマったという話を数カ月前に聞いたところだ。

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