『おかえりモネ』傷つく経験の必要性はない 莉子の悩みとともに浮き上がる多角的な問題
傷ついたことがない者は、“強くなるために”必ず傷つかなければいけないのだろうか。『おかえりモネ』(NHK総合)第84話で描かれたのは、男性中心で成り立ってきた報道というフィールドに立たされた女性の莉子(今田美桜)が追い詰められていく姿だった。
「かわいいいけど、説得力にかける」。容姿ばかりの感想で、莉子が真面目に取り組む報道の声を視聴者がまともに取り合っていないことが、視聴率低下の事実とともに明かされた。そして彼女の代わりに立たされたのは男性キャスターの内田(清水尋也)。もちろん、莉子も完璧ではなかった。誰もが完璧ではない。改善していかなければいけないことはたくさんあったかもしれないが、何よりも彼女自身の意識改革が必要だった。それを高村(高岡早紀)は指摘する。
「仕事に優劣をつけるのをやめなさい。自分で自分を貶めるのをやめなさい、もうそういう時代じゃない。私みたいなのは、なんて言っちゃだめ。誰よりも自分、あなた自身で、実力で勝負できてるって信じなさい。信じられるくらいになりなさい」
莉子は常に何かと何かを比べる癖があった。自分と他人、仕事と仕事。そしてどこかで自分が実力ではなくイメージや容姿でここまできたのではないかという疑いを自身に対して向けてきた。それを同じ立場にいた、そして同じ理由で一度降ろされたという高村に見破られたわけだ。
しかし、莉子の大きな間違いは、それら自分の問題を「自分が傷ついた経験がなくて強くないから」という理由に勘違いしてしまっている部分にある。百音(清原果耶)に対し、傷ついた経験がないことを謝る莉子。その切迫した様子そのものが、現在進行形で彼女が“傷ついている”のを示しているのに。そして、その会話を聞いていた菜津(マイコ)が彼女を咎めるように「それはダメよ」と言って、第84話は幕を閉じた。このダメが指すのは、百音という被災者の経験と非被災者の経験を比べることかもしれないが、それ以上に莉子が傷つく必要性あると感じてしまっていること自体なのではないだろうか。