長内那由多の第73回エミー賞予想! テレビ映画部門
HBO『OSLO/オスロ』が有力候補? エミー賞TV映画部門を徹底解説
アカデミー賞が、劇場公開を見送り、配信スルーとなった作品にもノミネート資格を与えるようになった今、いよいよその定義が曖昧になりつつある“TV映画”というジャンル。昨年、Amazonプライム・ビデオで配信された『フランクおじさん』、『シルヴィ 恋のメロディ』がオスカーレースでアナウンスされず不思議に思ったが、どうやらスタジオ側はTV映画としてエントリーしていたようだ。
映画スター出演の意欲作も多いTV映画は、日本ではなかなかお目にかかることのできない“幻の1本”となることも少なくなかった。近年はストリーミングサービスの充実によって本国とほとんどタイムラグなしに観ることができるようになっている。今年は現時点で第73回エミー賞の候補5作品中、4作品が視聴可能だ。
HBO(日本ではU-NEXTで配信中)の『OSLO/オスロ』は、1993年にイスラエルとパレスチナの間で結ばれた“オスロ合意”締結の裏側を描く実録作品。アンドリュー・スコット、ルース・ウィルソンらが扮するノルウェー人外交官夫婦の仲立ちにより、オスロでイスラエル、パレスチナ両代表団による極秘会合がもたれる。長い対立の歴史から両者は何度も衝突し交渉決裂の危機を迎えるが、その度に立ち止まり、理性と協調で歩み寄っていく。両国の衝突が再び激化する今日こそ、彼らのヒューマニズムは見直されるべきだろう。製作総指揮にはスティーヴン・スピルバーグが名を連ね、撮影をスピルバーグ組の名撮影監督ヤヌス・カミンスキーが務めている。鑑賞にあたっては多少の予備知識が必要な作品だが、時勢もあって受賞の有力候補ではないだろうか。
Amazonからは2作品がノミネートされた。『フランクおじさん』は『アメリカン・ビューティー』や『シックスフィート・アンダー』で知られる名脚本家アラン・ボールの監督作。1973年、主人公ベス(ソフィア・リリス)は南部の田舎町を出て、叔父フランクが教鞭を執るNYの大学へと進学する。他の親戚にはない知性と優しさを持ったフランクおじさんはベスにとって憧れの存在だったが、彼は不思議と家族の中で疎まれた存在だった。トラウマを抱え、家族と断絶したフランクおじさんに扮するポール・ベタニーはキャリア最高の演技。しかしノミネートはマーベル『ワンダヴィジョン』での主演男優賞候補となった。
おなじくAmazonの『シルヴィ 恋のメロディ』は1957年のニューヨークから始まるメロウなラブストーリーだ。父親のレコード店で働く主人公シルヴィと、サックス奏者ロバートの出会いと別離の10年間が描かれる。本作は舞台となる60年代映画風のルックで作られているが当時、そんな黒人映画が存在するわけもなく、本作のスタイルそのものが1つの批評となっている。MCUのヴァルキリー役や『クリード』シリーズ、『ウエストワールド』など勝気なイメージのテッサ・トンプソンがメロドラマのヒロインとしてこれまでにないキュートな魅力を発揮しているのも見どころだ。