松坂桃李が想像させる“空白の3年間” 俳優としての凄みが凝縮された『孤狼の血 LEVEL2』

 もっとも、日岡も2018年の『孤狼の血』では、広大を出たエリート刑事であり、捜査のためなら手段を選ばない大上章吾(役所広司)とコンビを組んだときには、彼の手荒なやり方に戸惑ってばかりだった。

 だから、どちらかというと、『今ここにある危機とぼくの好感度について』の神崎と経歴は近いと言っていいだろう。しかし、日岡は大上と共にいるうちに、組織の矛盾と、そんな中で生きる大上の真意を知るのだった。

 それから3年後を描いたのが『孤狼の血 LEVEL2』である。日岡は、まるで大上が乗り移ったかのように彼のやり方を踏襲していて、広島の呉原市(架空の都市)の裏社会を収めようとしていた。『LEVEL2』の日岡は、かつてのエリート刑事だったときの、いつも戸惑っているような様子はなく、完全に裏社会の面々と互角にやりあうほどの気迫をまとっている。

 あまりの変わりようであるが、「かたぎの生活を守るためには、悪魔にも魂を売る」という大上の遺志を継ごうと決めたときから、100%かけて、大上になろうとしたのではないかと思わせる。それもこれも、日岡のもともとの純粋で真面目な性格故のようにも見えるてくるのであった。

 個人的には、演技のうまい下手というのはないと思っている。重要なのは、その人が生きてきた年月や背景が見えることだと思う。『LEVEL2』を観て、日岡が悪に染まりきった姿を演じきってていることよりも、空白の3年間を自然と我々に想像させるというところに俳優としての凄みを感じる。

 どうしても俳優ならば、強烈な役を演じることで満足してしまうところもあるかもしれないし、力んでしまうこともあるだろう。しかし、松坂の演技からは、そうした個人の満足感や力みというのが見えず、ほかの役とごくごく同じ気持ちで、この日岡という役にも挑んでいるのではないかと思えた。

■公開情報
『孤狼の血 LEVEL2』
8月20日(金)全国公開
出演:松坂桃李、鈴木亮平、村上虹郎、西野七瀬、音尾琢真、早乙女太一、渋川清彦、毎熊克哉、筧美和子、青柳翔、斎藤工、中村梅雀、滝藤賢一、矢島健一、三宅弘城、宮崎美子、寺島進、宇梶剛士、かたせ梨乃、中村獅童、小栗基裕、吉田鋼太郎
監督:白石和彌
脚本:池上純哉
原作:柚月裕子『孤狼の血』シリーズ(角川文庫/KADOKAWA)
音楽:安川午朗
撮影:加藤航平
照明:川井稔
美術:今村力
録音:浦田和治
配給:東映
企画協力:KADOKAWA
(c)2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会
公式サイト:https://korou.jp/
公式twitter:@Korounochi_2021
公式Instagram:@korounochi_movie

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