村上春樹と濱口竜介の見事な融合 『ドライブ・マイ・カー』で考える“演じる”とは何か

『ドライブ・マイ・カー』で考える演じること

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、ゴールド免許を所持している宮川が『ドライブ・マイ・カー』をプッシュします。

『ドライブ・マイ・カー』

 ロカルノ国際映画祭で最優秀女優賞に輝いた『ハッピーアワー』、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された『寝ても覚めても』、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した『偶然と想像』(12月公開)など、新作を発表するたび国内だけでなく海の向こうでも大きな話題を呼んできた濱口竜介監督。そんな濱口監督3年ぶりの新作長編監督作となった『ドライブ・マイ・カー』は、先日開催された第74回カンヌ映画祭コンペティション部門に正式出品され、日本映画としては史上初となる脚本賞を受賞。さらに国際映画批評家連盟賞、エキュメニカル審査員賞、AFCAE賞も受賞し、見事4冠の快挙を達成した。

 原作は村上春樹の短編小説。『寝ても覚めても』でも原作ものの映画化に挑んだ濱口監督だが、今回は原作の短編小説から物語を膨らませ、上映時間179分という大ボリュームの内容に仕上げている。

 俳優の主人公・家福とその妻、家福が出会い交流を深めていく運転手のみさき、そして回想で登場する俳優の高槻と、主な登場人物は原作から引き継がれているものの、『ドライブ・マイ・カー』が所収されている短編集『女のいない男たち』の他の小説などから追加された要素や、細かい設定の変更などにより、完成した映画は原作小説とは印象が異なるものになった。特に、主人公・家福の“俳優・演出家”という職業にフォーカスし、アントン・チェーホフの戯曲『ワーニャ伯父さん』(原作にも『ヴァーニャ伯父』として登場)、サミュエル・ベケットによる戯曲『ゴドーを待ちながら』など実在の作品なども織り交ぜながら、濱口監督がこれまでの作品でもたびたび言及してきた“演じること”や、みさきの過去などそれぞれの登場人物のストーリーを掘り下げている。

 とりわけ印象的なのは、家福が演出家として劇をやることになった『ワーニャ伯父さん』の稽古風景のシーン。濱口監督自身の演出方法でもある、感情を抜いてただセリフを繰り返し読むという“本読み”の稽古を、岡田将生が演じる高槻をはじめとする参加俳優たちが行っていく様子を、カメラはじっくりと捉えていく。ここには韓国や台湾からオーディションで選ばれた海外キャストも参加。複数の言語を交えながら展開していくこのシーンは、濱口監督の真骨頂でもあり、これまでの作品でやってきたことの集大成とも言えるだろう。

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