“怖いだけじゃない”近年の台湾ホラー映画の魅力 『返校』『呪われの橋』などから紐解く

『返校』を軸に捉える台湾ホラーの魅力

 台湾版アカデミー賞こと、金馬奨に12部門ノミネート及び5部門という最多受賞を遂げたホラー映画『返校 言葉が消えた日』。ホラーゲーム実写化作品が、ここまで国民的に支持されているのはなぜか。その背景には近年の台湾ホラー映画の持つ素晴らしい深みと旨みがある。

『怪怪怪怪物!』と『返校』が光を当てる“目を背けたい闇”

 まず『返校』に関して思うのは、これが純粋なホラーとしても社会派作品としても成立していることだ。1960年代、台湾の白色テロ時代の真っ只中を舞台に、夜中の学校で目を覚ました女性生徒と後輩の男子生徒が脱出を試みるも校舎から出ることはできず、恐ろしいクリーチャーから逃げなければいけない。しかし本作の“恐怖”は、決して彼らを襲い来る亡霊たちではない。それは時代そのものだ。国の認めない書物は処分され、隠し持つ者は政府転覆をもくろむ反逆者とみなされ死刑に処される。“自由を求めることが罪とされる”、そんな戒厳令の下で行われていた政府の理不尽な弾圧と、子どもにも容赦しない拷問。実際に起きたこの台湾の歴史そのものが、この映画における“恐怖”なのだ。

 戒厳令は1947年の二・二八事件をきっかけに始まり、1987年まで続いた。40年間という長い時間の中で繰り広げられた自由に対する暴挙は、約140,000名を投獄し3000から4000人の命を奪った。ちなみに、エドワード・ヤン監督の『クーリンチェ少年殺人事件』も本作と同じ時代を舞台にした作品。その悲惨な歴史は誰もが目を背け、忘れたいと願うもの。しかし、“忘れてはいけない、忘れさせない”というメッセージが『返校』の描く強いメッセージとなっている。

 社会派ホラーの味わいを持つ『返校』は、その視点から2017年の『怪怪怪怪物!』と同じテーマを内包している。作家、監督のギデンズ・コーが自ら脚本をも手がけたオリジナル作品であり、こちらも『返校』と同じく生徒を主人公に置いた学園青春ホラーだ。クラスの中で横行するいじめを、教師も見過ごす日々。いじめられっ子の主人公は、自分をいじめた不良グループと一人暮らしをする老人の身の世話をするボランティアを命じられてしまう。しかし、独居老人たちの住むアパートはもはや廃墟に近く、そこには怪物の姉妹が暮らしていた。そしてある日、いじめっ子たちは車で轢かれ気絶していた怪物の妹を見つけ、捕らえる。

『怪怪怪怪物!』

 『怪怪怪怪物!』の“恐怖”、もとい“怪物”は、明らかにこのいじめられっ子たち“人間”である。老人をいじめたり、怪物を怪物だからといって壮絶な虐待をしたり。歯を抜き、血を抜き、殴る蹴るの暴行をして遊ぶ子供たち。いじめの標的が変わったいじめられっ子は、それを傍観するしかない。まるでクラスメイトや担任の教師が、自分がいじめられていた時にそうしたように。台湾でのいじめ問題は1990年代頃から関心が高まり、2000年以降にいじめを受けた生徒の自殺や、いじめの延長上にある殺人事件が増えてメディア報道が活発になったことから世間の注目を浴びるようになった。例えば2000年の「葉永鋕事件」は中学3年生の男子生徒が女性らしい仕草をしたというだけで日頃からトイレで暴行を加えられ致死に至ったもの。その生徒のジェンダーアイデンティティーは明確にされていなかったものの、この事件は世論を巻き込み、LGBTQコミュニティの正義を求める声が高まったことから、2019年の同性婚の法制化に至ったきっかけとも言われている。2009年の「上海熊姐事件」は、いじめの一部始終を撮影した動画がネットにアップロードされ、世間が激怒した。

『怪怪怪怪物!』

 翌年2010年の「桃園県八徳中学校事件」は、学校で起きた集団いじめ事件を学校側が隠蔽したことが明るみとなったことから、学級崩壊の深刻さと、いじめの悪質さに対する批判の声が国民から高まった。そういった背景から2015年には教育部がいじめの定義をし、本格的に取り締まる姿勢を表した。『怪怪怪怪物!』はまさに、そういった社会情勢の真っ只中で描くいじめの闇と、いじめをする生徒の逸脱した人間性(怪物性)を痛烈に描いた作品なのである。しかし、これもまた周囲が目を背けたい一方で、どれだけ規制をしてもなくならない闇。青少年と児童福祉団体、児童福利聯盟の発表によると、2019年に台湾の38ヶ所の小中学校生徒1157人を対象に行われたいじめの調査では、66.4%が校内いじめに関与したことがあると答え、そのうちのほとんど64.7%が傍観者にあたるという。『怪怪怪怪物!』のラストは、そんな傍観者が受ける報いを映し出している。



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