宇野維正×森直人、ウォン・カーウァイを語る MCUから『ムーンライト』にまで与えた影響

宇野維正×森直人、ウォン・カーウァイを語る

 独自のセレクトで今話題となっているミニシアター系のサブスク、【ザ・シネマメンバーズ】。8月は、その映画作家を語る上で外せない作品をセレクトする特集“エッセンシャルシリーズ”の第2弾。第1弾のジム・ジャームッシュに続いて特集されるのは、ウォン・カーウァイだ。『恋する惑星』『天使の涙』『ブエノスアイレス』『花様年華』という4作品を通じて、ウォン・カーウァイのエッセンスを味わい尽くせるセレクションを実現。

 ザ・シネマメンバーズでは、カーウァイ作品以外にも、今までなかなか観る機会がなかった映画が厳選され、特集のイントロダクションとなる記事とともに楽しむことができる。今回、カーウァイ作品公開当時を知る映画・音楽ジャーナリストの宇野維正、映画ライターの森直人に対談形式で当時を振り返りながら、カーウァイが現代に与えた影響を語り合ってもらった。

「彼らが90年代にやってきたことは、ちゃんとその次の世代に繋がっている」

『花様年華』(c)2000, 2009 Block 2 Pictures Inc. All Rights Reserved.

宇野維正(以下、宇野):いきなりだけど、ウォン・カーウァイを今どう評価するのかっていうのは、なかなか難しいところがあると思っていて。90年代のミニシアターブームの頃に、日本で人気があった他の作家たち――たとえば、ヴィム・ヴェンダースとかジム・ジャームッシュっていうのは、過去の作品については評価が確定しているところがあるじゃないですか。要するに、良い作品と“そうでもない作品”がはっきりしていて、そこにはもうあまり異論の余地が無いっていう。だけど、カーウァイの場合は、ちょっと難しいというか……それは、当時カーウァイと組んでいた、撮影監督のクリストファー・ドイルについても言えることなんだけど。

森直人(以下、森):そうですね。ただ、1997年以前の香港、つまり中国に返還されるまでの香港は、すごく特殊な場所でもあったから、それを対象化する意味でも大事だと思っていて。やっぱり、今の香港とは、全然違うわけじゃないですか。

宇野:そうだよね。

森:あと、中華圏だけじゃなくて、アジア系文化のグローバル化は最近顕著ですし、そこからカーウァイの存在を逆照射すると色々面白そうだなと。

宇野:今回ラインナップされている4作品は全部リアルタイムで観ていたから余計に思うことなのかもしれないけれど、カーウァイはそうした動きにおいて、間違いなく先駆者だよね。

『ブエノスアイレス』(c)1997, 2008 Block 2 Pictures Inc. All Rights Reserved.

森:そこにはやっぱり、返還前の香港という、歴史的にも特殊な場所でできた映画だからというのも、要因としてあると思います。イギリス統治下の混沌とした感じ、多様なエスニシティをはじめ、いろんなものが入り混じった文化で生まれた映画というか。カーウァイが好むラテン音楽なんかもフィリピン経由で香港に流れ込んだという地政学的な歴史もある。あと、再評価という点では、カーウァイの『ブエノスアイレス』(1997年)の話を、最近ちょいちょい目にするんですよね。それこそ、バリー・ジェンキンス監督の『ムーンライト』(2016年)とか。

宇野:ああ、そうだね。かなり影響を受けているんだよね。

森:もう、完全にオマージュを捧げていて……『ブエノスアイレス』と同じカエターノ・ヴェローゾの「ククルクク・パロマ」っていう曲を、映画の中で使っていたりするんですよね。

宇野:そうそう。そういうあからさまなオマージュもある。

>>ザ・シネマメンバーズで『ブエノスアイレス』を観る

森:そうなんですよ。そこで久しぶりにカーウァイの名前を聞いて、個人的にはちょっと驚いたところがあって。あと、『ノマドランド』(2021年)のクロエ・ジャオ監督もカーウァイからの影響を公言していて。10代の頃に、カーウァイとかその周辺の作品を観て、映画に目覚めたらしいんです。クロエとずっと組んでいるジョシュア・ジェームズ・リチャーズっていうイギリス出身の撮影監督がいるんですが、そのあたりも、勝手にカーウァイとドイルの関係を連想してしまう(笑)。

『ブエノスアイレス』(c)1997, 2008 Block 2 Pictures Inc. All Rights Reserved.

――なるほど(笑)。

森:バリー・ジェンキンスが1979年生まれで、クロエ・ジャオが1982年生まれなんですが、そのあたりの世代は、実はカーウァイ作品からの影響が大きいかもしれないですよね。いちばん多感なティーンの頃に、カーウァイの作品を観ているっていう。

宇野:なるほどね。あと、マーベルの『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021年)に、カーウァイ作品常連のトニー・レオンがかなり大きい役で出るじゃない? そういうキャスティングの繋がりもありつつ、その次のMCU作品がカーウァイで映画に目覚めたクロエの『エターナルズ』(2021年)という。そう考えると、ハリウッドのメインストリームにも影響が流れ込んでいるということだよね。現在のカーウァイやドイルの評価はさておき、彼らが90年代にやってきたことは、ちゃんとその次の世代に繋がっている。

『天使の涙』(c)1995, 2008 Block 2 Pictures Inc. All Rights Reserved.

森:まあ、カーウァイもドイルもまだ現役ですけど、その現役感はともかく、彼らが組んでいたある期間ですよね。『欲望の翼』(1990年)から始まって、『楽園の瑕』(1994年)、『恋する惑星』(1994年)、『天使の涙』(1995年)、『ブエノスアイレス』(1997年)、『花様年華』(2000年)くらいまでか……『2046』(2004年)も一緒にやっているけど、あれは複数の撮影監督が入っていたから。で、そのあとカーウァイは、アメリカに行って、ノラ・ジョーンズ主演で、全編英語の『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(2007年)を撮るんだけど、それにはもうドイルは参加していない。『花様年華』までの蜜月期間の作品は、確かに神がかっている感じがありますよね。カーウァイもドイルも、この時期は突出して作品が良い。

>>ザ・シネマメンバーズでウォン・カーウァイを観る

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