韓国アクションから台湾ヒューマンドラマまで 7月は見逃せない“アジア映画”が目白押し!
『共謀家族』(中国)
インド映画をリメイクした『共謀家族』(7月16日公開)は、中国の年間興収トップ10入りを果たした大ヒットサスペンス映画。不良高校生スーチャットから暴行を受けたピンピンが誤ってスーチャットを殺してしまったことから、彼女の父親リーが家族ぐるみで事件を隠蔽しようとする姿を描く。不謹慎だと承知の上で面白いと思えてしまうのは、完全犯罪を画策するリーの手本が膨大な“犯罪映画のトリック”という点。リーとその家族の共謀は、どのような結末を迎えるのか。
『少年の君』(中国・香港)
第93回アカデミー賞国際長編映画賞へのノミネートにより、以前から大きな注目を集めているデレク・ツァン監督の『少年の君』(7月16日公開)。孤独な優等生の少女チェン・ニェンと不良少年シャオベイが出会い、お互いに引き合っていく様子が胸に迫る新たな青春映画だ。2人の運命的な物語だけでなく、受験戦争や壮絶ないじめ、ストリートチルドレンといった社会問題もサスペンスフルな緊張感を生み出し、スクリーンにひりひりとした空気を刻みつける。
『SEOBOK/ソボク』(韓国)
『新感染 ファイナル・エクスプレス』などのヒット作で日本国内の人気も高い、コン・ユが主演を務める『SEOBOK/ソボク』(7月16日公開)。余命宣告を受けた元情報局エージェントのギホンをコン・ユが演じる同作は、人類に永遠の命をもたらすクローン“ソボク”の存在が鍵に。闇の組織による襲撃に遭い、ソボクと衝突しながらも彼と心を通わせていくギホンのドラマがクローン問題を扱ったSF作品に深みを与える。もちろん韓国映画印のハードでダイナミックなアクションやチェイスシーンも見どころ。
『親愛なる君へ』(台湾)
亡き同性のパートナーの母親と息子の面倒を見ながら、彼らの家に住み続ける、『親愛なる君へ』(7月23日公開)の主人公ジエンイー。ところが、その母親が急死したことをきっかけに、子供の叔父から遺産を狙った殺人の疑いをかけられてしまう。どんどんジエンイーにとって不利な証拠があがり、本人も罪を認めてしまう。しかし回想シーンから、上辺からは捉えることのできない家族の絆が見えてくる。今でこそ同性婚が法律で認められた台湾だが、それ以前を舞台にした同棲とのパートナーシップ、“家族”のあり方、終末介護など様々なテーマに触れた感動作だ。本作の主演を務めたモー・ズーイーは、2020年第57回金馬奨で最優秀主演男優賞を受賞している。
『夕霧花園』(マレーシア)
『夕霧花園』(7月24日公開)は2020年の大阪アジアン映画祭でオープニング上映されたトム・リン監督作品。1980年代・1950年代・第二次世界大戦中の3つの時間軸からなるラブロマンスであり、マレーシアとその占領国である日本という因縁を超えて惹かれ合う男女の切ない恋模様が紐解かれる。同作には日本人庭師・中村役で阿部寛が参加。また香港と台湾映画界で活躍するリー・シンジエがヒロインのユンリンを演じるほか、『オーシャンズ13』などのジュリアン・サンズや、映画監督のホー・ユーハンがカメオ出演するなど細かい配役にも製作陣の采配が光る。
『返校 言葉が消えた日』(台湾)
2019年度台湾映画No.1ヒットを記録した『返校 言葉が消えた日』(7月30日公開)は、第56回金馬奨で12部門にノミネートされて5部門を受賞するなど、興収面とともに作品評価そのものも抜群に高い。舞台となるのは独裁政権のもと国民のあらゆる自由が制限されていた1962年の台湾。ある高校では政府が禁止した本を密かに読む読書会が開かれていたものの、国家による迫害事件が起きてしまう。大ヒットホラーゲームを基にした物語は多くの謎を内包していて、予告編からもその異様な空気感がひしひしと伝わってくる。
……以上のとおり、この7月は注目のアジア映画が目白押し。サマーシーズンを牽引する欧米作品の製作・公開延期が続出したことで、例年以上に大小含めたアジア映画に注目が集まる流れがあったのは事実だろう。もちろん大作映画の公開延期による国内映画産業への打撃は計り知れないのだが、そんな中でも映画ファンにコアな作品を届けられるという希望の光もまた見出される結果になったのではないか。
それだけではない。『唐人街探偵 東京MISSION』、『夕霧花園』のように、日本人俳優が他のアジア圏映画に出演した作品(その逆パターンも)が封切られることの意味は大きい。アジア映画を主戦場とする俳優が各国の作品に出演することは、映画製作を通じて相互間の信頼関係を強めるきっかけになる。またアジア映画の世界進出を前に、まずは同じアジア内で映画をシェアして、作品や俳優の認知度をフィルムメーカー・観客の双方で一層高めることも重要。苦境の続く状況とはいえ、これまで触れる機会のなかったアジア映画を知ることは、アジア映画の未来を照らすことにも必ずつながるはずだ。
■葦見川和哉(あしみがわ かずや)
映画/映画音楽ライター。子どもの頃から映画を観て育ち、竜巻を題材にした『ツイスター』で映画好きの血が完全覚醒。同時に映画音楽にもハマり、サントラ収集がスタートする。好きな作曲家はハンス・ジマー、推し俳優はドニー・イェン。
■公開情報
『SEOBOK/ソボク』
7月16日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー
出演:コン・ユ、パク・ボゴム
監督:イ・ヨンジュ
配給:クロックワークス
2021年/韓国/カラー/シネマスコープ/DCP5.1ch/114分
(c)2020 CJ ENM CORPORATION, STUDIO101 ALL RIGHTS RESERVED
公式サイト:seobok.jp