『青天を衝け』前半戦のMVPは草なぎ剛 後半戦は変化する栄一を吉沢亮がどう演じるか

 放送開始から5カ月が経過し、7月11日の放送の第22回「篤太夫、パリへ」から新章へと突入する『青天を衝け』(NHK総合)。“日本資本主義の父”と呼ばれる渋沢栄一(吉沢亮)の半生を通して、激動の幕末史がここまで描かれてきた。これまでも幕末を題材とした大河ドラマは数多く作られてきたが、『青天を衝け』がそれらの作品と決定的に違う点がある。それは幕末の主役の一人とも言える坂本龍馬をまったく登場させていないことだ。栄一、およびもうひとりの主人公ともいえる徳川慶喜(草なぎ剛)の視点が中心であることもあり、彼らが接する人物以外はいかに歴史に名を残す偉人でも登場しない。この思い切った構成について、ライターの麦倉正樹氏は次のように語る。

「歴史の流れを知っている私たちは、このとき各地で何が起こっていたのか、世界がどういった状況で日本に開国を迫っていたのか、理解することができます。でも、当然ではありますが、当時を生きていた人たち、しかも政治の中枢にいたわけではない栄一は、いま何が世の中で起きているのか頭で考えてはいても、実像として認識することはできなかったわけです。いわゆる“歴史の大事件”や、維新志士たちの見せ場は少ない物語に感じられますが、だからこそ栄一と同じように変わっていく世の中に視聴者も巻き込まれていく感覚が味わえるという見方もできるしょう。栄一は最初は尊王攘夷運動を志すものの、平岡円四郎(堤真一)との出会いもあり、一橋家家臣、幕臣となりました。熱い思いは持っているものの、うがった見方をすれば、自分で道を切り開いてきたというよりは、めぐり合わせによって、与えられた場所でいまのところ能力を発揮しているという印象です。しかし、そんな彼は第22回から描かれる予定のパリ万国博覧会で世界の技術と社会制度を、自分自身で目の当たりにすることになります。つまり、パリでの経験こそが、栄一の今後の道を大きく変えることになるのです。ある種受け身だった栄一が、明治維新後、いかに自分から動き出していくのか。そして社会を変えていくのか、その点が後半の見どころとなりそうです」

 史実では明治維新後、栄一は民部省を経て大蔵省で働くこととなる。直属の上司・井上馨(福士誠治)との間にはさまざまな逸話もあり、どう描かれるのか今から楽しみだと麦倉氏は続ける。

「井上馨は物凄い癇癪持ちで有名だったそうですが、渋沢栄一だけは一度も怒らせたことがなかったとか。2人は『雷親父と避雷針』と評されていたようですね。栄一を演じる吉沢さんは、これまでも相手の懐に入る芝居をうまく演じているだけに、実は既に第17回でチラリと登場している井上馨と伊藤博文(山崎育三郎)の2人をはじめ、大久保利通(石丸幹二)といった長州・薩摩の維新志士たちと、フランスから帰国後どう渡り合っていくか楽しみです。吉沢さんはここまでは栄一の真っ直ぐさをうまく体現していますが、実年齢より上の栄一を演じることになったとき、ある種の狡猾さ、人間としての重みを表現できるのかも注目したいです。また、渋沢栄一は“日本資本主義の父”、日本社会の経済(=Economy)を築いた人物とされていますが、彼の思想の根底にあったのは『経世済民』(=経済)の考え方に近いような気がします。ビジネスとしての経済(=Economy)ではなく、世のため、市民のために何ができるかという考え方です。なので、単に実業家として多くの会社を創業したという側面だけではなく、どんな思いを持って誰のためにそれらの会社や組織を作り出していったのかといったところも是非描いてほしいですね」

 そして、前半戦のMVPは慶喜を演じた草なぎ剛だったと麦倉氏は語る。

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