原作漫画とアニメが双方向に高め合う『呪術廻戦』 背景にはMAPPAの“翻訳力の高さ”あり

原作者・芥見下々全面バックアップによるアニメの相互協力

 こうしたアニメならではの表現への挑戦や、先述の「翻訳力」の高さといったTVアニメ『呪術廻戦』の面白さの元になるのは、スタッフの力量の高さであることは言うまでもない。それに加えて欠かせないのが、他作品でもあまり類を見ないほどの原作者サイドとの協力関係だ。これらは、「原作からアニメへの補完」と「アニメならでは遊び」の二つが大きな要素として考えられる。

 「原作からアニメへの補完」で言えば、例えばTVアニメ第1話での、虎杖と祖父のナースコールのシーン。TVアニメ化にあたり朴監督と瀬古から、2人の関係性をもう少し掘り下げた方がいいのではという要望があったため、芥見自らネームを描き下ろしたと「公式スタートガイド」内で片山が述懐している。またこのシーンだけでなく、TVアニメ本編後のおまけアニメ「じゅじゅさんぽ」のネームも芥見の描き下ろしだ。

 また、芥見から瀬古へ、吉野順平のエピソードについて作中で言及して欲しいと要望があったことも、「公式スタートガイド」で語られている。一つは原作3巻のおまけページで触れられている、“「好きの反対は無関心」問題”。そこでは「好きの反対は無関心」という言葉について、芥見が元の言葉ではなく誤謬について触れたつもりが、上手く伝わらず各所から突っ込まれた悔しさがコミカルに描かれている。そこで、TVアニメ第10話の当該シーンの会話の中では、真人が「それ考えたの日本人じゃないよ」と突っ込むのに対し、吉野が「僕が言っているのは誤謬の方です」としっかりフォロー。もう一つは、原作第4巻のおまけページで触れられていた、吉野の映像研時代のエピソードだ。「この辺のエピソードを描いた方がもうちょっと吉野の善い面をお届けできた気がする」と振り返っており、こちらは先のシーンと同じく、TVアニメ第10話のアバンとして追加された。

 「アニメならではの遊び」としては、花御の言葉が例として挙げられる。劇中で五条に完膚なきまでに叩きのめされる漏瑚を見ていた夏油が、「助けたいなら助ければいいさ。呪霊にそんな情があるかは知らないけどね」と言い含み、花御がそれに返答するシーン。原作第16話では花御の返答は訳されていないが、TVアニメ第7話での台詞の音声を逆再生することで、そこで何と答えていたか分かるようになっている。また、呪術甲子園が描かれた第21話での、各生徒の野球中継風テロップは芥見自身が考案した。

 このように、TVアニメ『呪術廻戦』の面白さは、スタッフの工夫に加えて芥見の全面バックアップもあってこそ。しかし、アニメ側が原作側の監修でがんじがらめということでは全くなく、『呪術廻戦 公式ファンブック』内で芥見は、「アニメはコンテまでパラパラーと担当さんとチェックしてあとはお任せ!」と、読解の差異まで楽しんでいる様子を語っている。

原作への逆輸入も!アニメと双方向に高め合う『呪術廻戦』

 この『呪術廻戦』のアニメとの協力体制は、原作にも影響を与えている。アニメ化に際し、漏瑚役は芥見たっての希望で千葉繁に。加えて、千葉の音響監督作のファンでもあるという芥見は、日本のTVアニメ制作でも一般的なキャストの兼ね役も好きだということで、祖父役も千葉が務めることになったと「公式スタートガイド」内で片山が振り返っている。祖父が死に際に虎杖にかけた「オマエは強いから人を助けろ」という言葉は、その後の「人を正しい死に導く」という虎杖の行動指針の礎でもあり、同時に彼を縛るある種の呪いの言葉だ。そのため、先述のナースコールのシーンの追加からも窺える通り、2人の関係性は物語の導入部分としても、全体としてもキーとなっている。

 そんな祖父役の千葉の演技について芥見は、ゲスト出演したTV番組「漫道コバヤシ #75 芥見下々『呪術廻戦』 -赫-」内でコメント。TVアニメ第1話の収録に立ち会った際、千葉の演技に圧倒されたといい、その上で「この人が声をあててくれるなら、ちゃんとしたものをやらなければならない」と感じ、その後の原作での漏瑚の描き方にもより力が入ったことを熱く語っていた。

 また、釘崎についてもTVアニメから原作に活かされたシーンがある。TVアニメ第3話で、上京した足でそのまま虎杖と共に呪霊退治をすることになる釘崎。ここでインサートされる過去回想で、原作の該当話ではまだ明かされていなかった釘崎の幼少期の姿が描かれる。後に原作では彼女の幼少期のエピソードに改めて触れられているが、『週刊少年ジャンプ 2020年40号』巻末では、「幼少期の野薔薇は(TVアニメでキャラクターデザインを務める)平松さんがアニメ用にデザインしてくれました!!すご〜い」と、芥見がコメント。『呪術廻戦』ではこうしたTVアニメから原作への逆輸入も成され、双方向に高め合っている。

アニメ作品からの『呪術廻戦』への影響

 『呪術廻戦』の原作とアニメの双方向性は、芥見が作画を中心としてアニメ自体に非常に造詣が深く、それを自身の作品に昇華していることも理由として考えられる。「公式ファンブック」では、芥見が自身の原点を語るコーナー「芥見先生’s バイブル アニメ編」でそのアニメ愛が炸裂!小学生時代、書店で見つけた映像作家・森本晃司の作品集に衝撃を受けたといい、「自分がマンガの絵を描く時、一番根っこの部分で影響を受けたのは間違いなく森本さんだと言えます」と告白している。

 加えて、庵野秀明監督へのリスペクトも「公式ガイドブック」含めインタビューで芥見がしばしば触れている点だ。『週刊少年ジャンプ 2016年44号』に掲載された読切『二界梵骸バラバルジュラ』の設定や、『呪術廻戦』での呪術界上昇部の描写、TVアニメ化されている以降の原作のエピソードからもその影響は見て取れる。それは、全てを説明しすぎず想像の余地を残す『呪術廻戦』の描写についても同様だ。このようにアニメ、そしてもちろん漫画や映画、ドラマ、小説といった自身の通ってきた作品を吸収し、オリジナリティとして昇華する芥見の類稀な才能、そして磨いてきたセンス、技巧という血と汗の結晶が、『呪術廻戦』という作品を形作ってきた。

 現在は芥見の体調不良のため、『週刊少年ジャンプ』での連載は1カ月の休載中。しかし、7月2日からは、「TVアニメの追体験」をコンセプトにし、前期・後期に渡って開催される「アニメーション 呪術廻戦展」が渋谷で開催されている。劇中の百鬼夜行の日程に合わせ、12月24日には『劇場版 呪術廻戦0』の公開も控えており、更に加速し続けている本作。これを機会に、原作とTVアニメの双方向な結び付きを改めてじっくり楽しみながら復習することで、更なる気づきがあるかも?

■桜見諒一
パブリシスト/国内外の実写・アニメーション映画を中心に幅広い作品の宣伝業務を行う傍ら、2021年よりライター活動を開始/Twitter

■公開情報
『劇場版 呪術廻戦 0』
12月24日(金)公開
原作:『呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校』芥見下々(集英社 ジャンプ コミックス刊)
制作:MAPPA
配給:東宝
(c)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
公式サイト:jujutsukaisen-movie.jp
公式Twitter:@animejujutsu

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