『ひげひろ』“演技派”市ノ瀬加那が見せる可能性 荒唐無稽な話を成立させる存在感

 この抜擢に応えるように、『ひげひろ』ではシリアスな過去を隠すように笑顔を繕い、そしてやさしい吉田に少しずつ心を開いていく沙優を演じている。そして普通に送っていた高校生活から家出するまでの経緯が沙優の口から明かされた第9話「過去」や沙優が北海道に帰るまでの束の間のひとときが描かれた第10話「証明」では、これまで演じてきたキャラクターの延長線上以上の、新境地すら感じられるような演技も見せている。これから迎える物語のクライマックスで、吉田や周囲の人々との交流によって成長した沙優がどう演じられるか——風野あさぎが敗北した『色づく世界の明日から』のメインヒロイン・瞳美を演じた石原夏織のキャラクターに今作では勝利するかというやや邪なポイントも含め——必見だ。

 また『ひげひろ』だけでなく、市ノ瀬自身の今後にも期待が高まる。彼女は「声優アワード」新人女優賞受賞時のインタビューで「ちょっとずつ殻を破って『こういう役もできるんだぞ!』と思っていただけるように頑張りたい」と役の幅を広げることに意欲を見せている。『おしえて北斎! -THE ANIMATION-』での横山たいこでもその片鱗も見せているが、所属事務所のシグマ・セブンの公式サイトにあるサンプルボイスを聴く限りでは、お姉さんや少年などのキャラクターを演じる可能性も十分にありそう。現在は翡翠役でのゲーム『月姫 -A piece of blue glass moon-』への出演がアナウンスされているが、今後どういったキャラクターを演じ、どんな演技を聞かせてくれるだろうか。

 以下は蛇足ながら、市ノ瀬の経歴にはいわゆるアイドルキャラクターが存在しないのが意外だ。最近では彼女や石見舞菜香、島袋美由利といったアイドルコンテンツにあまり出演せず、演技を中心にキャリアを重ねてきた人々の活躍も目立ってきている印象が強い。『キラッとプリ☆チャン』でアリスを演じたファイルーズあいもその1人といえるだろう。もちろん今後アイドルコンテンツに出演する可能性はあるが、そうした“演技派”とも言える女性声優たちの活躍にも注目したい。

■はるのおと
アニメやマンガ、ゲーム、デジタルガジェットに関するライター・編集。週に65本くらいTVアニメを楽しみながら、たまにテキストを書いています。Twitter

■放送情報
『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』
TOKYO MXほかにて、毎週月曜24:00〜放送
声の出演:興津和幸、市ノ瀬加那、金元寿子、石原夏織、小林裕介、川井田夏海ほか
原作:しめさば(角川スニーカー文庫刊)
キャラクター原案:ぶーた
監督:上北学
シリーズ構成:赤尾でこ
キャラクターデザイン:野口孝行
音楽制作:ポニーキャニオン
プロデュース:ドリームシフト
アニメーション制作:project No.9
(c)しめさば・KADOKAWA/『ひげひろ』製作委員会

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