『グーニーズ』なぜキッズ作品の代表的な存在に? 現実ともリンクする一抹の“ほろ苦さ”

『グーニーズ』が“クラシック”となった理由

 このように本作では、優れた実績と、いまの目で見ると将来性を兼ね備えていた才能が、それぞれに得意な分野で充実した仕事をこなしていることが分かる。だからこそ、本作は子ども向けでありながら、子ども騙しの映画にはなっていないのである。

 また、プロダクション・デザイン(美術監督)のマイケル・リヴァは、本作にとって命となる、海賊にまつわる様々なアイテムに意匠を凝らした。後に『アイアンマン』シリーズや、アカデミー賞授賞式、夏季オリンピック開会式などの美術など、大規模な美術を手がけた人物だ。

 クライマックスの舞台となる海賊船は、2カ月半もの期間、美術チームが力を注いで、実物大で建造した労作である。製作陣は、出演している子どもたちに、この海賊船の存在をわざと知らせずにおいて、撮影時に初めてお披露目することで、子どもたちの自然な演技を引き出したのだという。海賊船を発見したマイキーたちの喜びようは、本当に驚き感動している姿なのだ。

 しかし、この映画は、ただ“愉快で楽しいキッズムービー”という印象以外に、どこか暗さを感じさせるところがある。それは、シーンの多くが地下の闇の世界であることが影響しているのはもちろん、主人公の家が力を持った大人たちに立ち退きを迫られたり、犯罪者が子どもを襲ったり監禁するなど、大人たちにプレッシャーをかけられる子どもたちの姿が描かれているからだ。

 子どもは守られるべき存在だと誰もが知っている。しかし、“死”のイメージが散りばめられた洞窟でのトラップが、容赦なくグーニーズの命を奪おうとするのと同様、実際には日常のなかでも、子どもたちは大人の社会の暴力に触れることがある。本作は、子ども扱いされない環境に入り込んだ子どもたちが、大人の階段を登るというテーマを持っている。その意味では、子どもたちだけで死体を探しに行く、本作の翌年公開の映画『スタンド・バイ・ミー』(1986年)と同様の構造を持っているといえよう。

 だからこそ、大団円を迎えるラストシーンは、試練をくぐり抜けた歓喜とともに、無邪気な子どもではなくなってしまった寂しさが、シーンに漂っているのだ。海賊船が狭い洞窟の中から、海の彼方へと旅立つイメージもまた、人間が大人になることで手にする自由の象徴であり、一方で現実の恐ろしさを知った不安の象徴として映ることになる。

 本作が公開から30余年も愛され、記憶される理由は、素晴らしい製作陣の才能が注ぎ込まれていることはもちろん、本作を鑑賞した世界中の子どもの観客みんなが、その後、現実社会においても、より大きな自由と、より大きな不安を抱えるグーニーズのような経験をして成長してきたからではないだろうか。そんな一抹のほろ苦さこそが、『グーニーズ』を“クラシック”と呼べるような、キッズ映画の代表的な地位へと押し上げた理由だと思えるのだ。

 そんな本作の遺伝子は、後年の様々な作品に受け継がれている。『SUPER8/スーパーエイト』(2011年)や、ドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり』シリーズなど、アメリカの田舎の子どもたちが、非日常的な体験を通して、友情や初恋を経験しながら成長する作品の多くで、製作者たちは『グーニーズ』を参照し、積極的にその雰囲気をとり入れているように感じられる。

 とくに近年は、『グーニーズ』を子ども時代に劇場で鑑賞し、大きな影響を受けている世代が、作り手として映画を主導する立場となっている場合も多い。その意味で、『グーニーズ』を含めた1980年代当時の作品は、現在の様々な映画やドラマの“核”となっているともいえるのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■放送情報
『グーニーズ』
日本テレビ系にて、6月11日(金)21:00~22:54
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ、フランク・マーシャル、キャスリーン・ケネディ
監督:リチャード・ドナー
脚本:クリス・コロンバス
出演:ショーン・アスティン、コリー・フェルドマ、ジョシュ・ブローリン、ジェフ・コーエン、キー・ホイ・クァン
(c)Warner Bros. Entertainment Inc.

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