『デニス・ホー』が描く“人間”として生きる大切さを 監督が昨今の香港事情について語る

『デニス・ホー』初日トークショーレポ

 6月5日、渋谷のミニシアター、シアター・イメージフォーラムにて、ドキュメンタリー映画『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』の公開を記念してトークショーが開催された。

 本作は、香港ポップミュージック界のスーパースター、デニス・ホーが香港の自由を求める運動に身を投じていく姿を追いかけたドキュメンタリーだ。アーティストとして大きな成功を収め、中国本土でも活躍していた彼女は、社会運動にも関心を寄せ、2014年の雨傘運動にも参加。そのことで中国本土の活動を禁じられ全収入の90%近くを失ってもなお、学生らとともに戦い続ける姿を赤裸々に映している。

 公開初日のトークショーには、本作の監督スー・ウィリアムズ氏と東京大学・大学院総合文化研究科の教授で、香港・中国事情に詳しい阿古智子氏がオンラインで登壇、本作と昨今の香港情勢について語り合った。

 奇しくも本作の日本公開日の前日は、天安門事件のあった6月4日。阿古氏は、香港ではキャンドルを灯して静かに祈りをささげることも許されなくなり、阿古氏の友人も逮捕されてしまったという。ウィリアムズ監督はそんな香港の状況を嘆きながらも、香港の人々がキャンドルの代わりにスマホのライトを用いて慰霊の意を表現するなど、様々な手法で表現の自由を今も守ろうとしていることに敬意を評していると語った。しかし、デニス・ホー自身も含め、表立った大きな活動はやりづらくなっているようだ。

 阿古氏は、そんな中でも香港の若いアーティストたちの間で、自分たちのアイデンティティを大切にしようという動きが盛んだと指摘。本作でも描かれているように、それはデニスが続けてきたことでもあり、彼女の活動は後進にも確実に影響を与えていると指摘した。

 ウィリアムズ監督もそれに同意し、デニスは若いアーティストに実際にたくさんの助言をおこなっているのだと話してくれた。

 そんなデニスは、幼少期と青春時代をカナダのモントリオールで過ごしたことが映画の中でも描かれている。阿古氏は、デニスの多様性と自由を大切にする感性はこの時期に育まれたのかと質問。ウィリアムズ監督は、デニスにとってカナダ時代はとても重要で、本作の中でもモントリオールについての曲を歌う時に感極まって詰まってしまうシーンがあるが、それはそういう気持ちの表れなのだと語った。

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