『バイオハザード ヴィレッジ』の映画的な構築と魅せ方 一方で浮上する引用と盗用の境界線

『バイオハザード』の映画的な引用

 もともとは探索や戦闘、謎解きがメインだった『バイオハザード』シリーズ。しかし、途中からミリタリー色が強まり、ホラーというよりアクションに比重が置かれた。そこから一気に方向転換したのが『バイオハザード7』である。主人公はシリーズ初登場の一般人イーサンであり、行方不明になっていた妻ミアの捜索に単身ルイジアナの民家を訪れる。そこで彼を待ち受けていたのは凶暴化した妻と、恐ろしい一家だったわけだが、この一家が食卓を囲む描写がまさしく『悪魔のいけにえ』のソーヤー家のオマージュとして当時話題となった。

『BIOHAZARD 7 resident evil』 TAPE-2 “ベイカー”

 本作には多くの(ホラー)映画からの引用が目立つ。それというのも、そもそも製作側がプロダクションの際に先述のように、これまでのミリタリー路線から再びホラー色を強めるため『死霊のはらわた』をモチーフにしているのだ。だからか、一家の父親ジャックがチェーンソーを持つ際に、『死霊のはらわた』の主人公アッシュの決め台詞「グルービー」と言う場面も。ディレクターの中西晃史は「父ジャックはスラッシャー系、母マーガレットは生理的嫌悪感を煽る虫地獄系、息子ルーカスは映画『ソウ』のようなトラップ系」と、それぞれの恐怖を、様々なジャンルのホラー映画に当てはめるようにして構築したというのだ。

 このように、映画的文脈が強くなった7の続編『ヴィレッジ』は、よりストーリーや映像がダイナミックになっていて、前作に続くイーサンの物語の完結という意味合いで非常にカタルシスを感じる作り方をしている。舞台がヨーロッパはルーマニアに移り、様々なクリーチャーが登場する。特に吸血鬼のようなドミトレスクが三人の美しい娘を従えていたり、狼人間のようなキャラクターが登場したりする点が『ヴァン・ヘルシング』を彷彿とさせる。しかし、今このオマージュもとい引用が問題になっている。というのも、ハイゼンベルグのボス戦で登場するクリーチャーが2013年公開の『武器人間』に登場するクリーチャーデザインを盗用していると監督本人がLinkedInにて主張しているのだ。

 ことの発端はTwitterアカウント@CloneKorpが『武器人間』の監督リチャード・ラーフォーストにメンションを飛ばしながら、『武器人間』に登場した頭部にプロペラを装着したクリーチャーと『ヴィレッジ』に登場したモンスター・スタームの画像を並べて投稿。すると、監督はそれに対して自分の作品からの完全なコピーだと訴えている。似ているのはその風貌だけでなく、後半にプロペラ部分が燃えるという展開もである。ラーフォーストはこの件について、カプコン側から一切のコンタクトも受けていないことを話しながら、Eurogamerのインタビューにて以下のように心境を語っている。

「最初は腹が立ちました。しかし、その後誇りに思ったんです。今は色々な方の反応を見て再び腹が立っています。侮辱されている。素晴らしいデザインを考えることは、とても難しいことです。クールなデザインとして展開することも難しいです。ただ宙に浮いているアイデアを掴めばいい、ということではない。重労働なんです。それを彼らは、ただ掴んでゲームの中に入れた。クリエイティブ的な虐待です」

 ラーフォーストは映画の権利を持っていないため、カプコンにロイヤリティの請求をすることができないそうだ。本作の著作権はアメリカのMPIメディアグループが所有している。それでも、彼はゲーム製作側にクレジットの明記を望んでいる。

 「もし彼らが『こんにちは、リチャード。次のバイオハザードにあなたのデザインを使わせてもらう代わりにクレジットに入れるかロイヤリティを支払いますよ』と私を尋ねてくれていたら、とても光栄なことでしたし、自分にとっても非常にポジティブな経験になったことでしょう」

 今回の『バイオハザード』の問題はデザインにあったが今後、より映画的なゲームが増えていく中で、こういった“引用”についての線引きは非常に重要になっていくことだろう。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。InstagramTwitter

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる