『ゴジラvsコング』全米大ヒットの裏で映画館チェーンが閉鎖 変革が急速に進むハリウッド

 『ゴジラvsコング』の勢いが止まらない。早くも前作にあたる『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』を抜き、日本や米国に先駆けて公開された海外市場のうち中国では、史上最も稼いだモンスター映画となった。製作費は1億6000万ドル(約174億円)、宣伝費に7000万ドル(約76億円)をかけたと言われているが、ゴジラの故郷日本での公開を待たずして全世界興行収入が3億3860万ドル(約369億円)を超える大成功を収めている。アメリカではワクチン接種が順調に進んでいる状況もあり、新型コロナ陽性者の数が急減。3月19日より、昨年3月から1年間閉鎖されていたロサンゼルスの映画館もようやく営業を再開することが可能になり、劇場へ足を運ぶ観客が増えたとみられている。多くの都市で25%~50%の収容率で営業している米国内劇場での興行収入も、4月15日の時点で7000万ドルを計上しているが、米国内では3月31日の劇場公開と同時にワーナー系列のストリーミングサービスのHBO Maxでも配信が開始されていることを忘れてはならない。配信開始5日目には、『ゴジラvsコング』がHBO Maxのサービス開始以来最も視聴されたコンテンツになったと発表している。また、アプリ調査会社App Annieの調べによると、2021年第一四半期にダウンロードされたアプリのトップ10にHBO Maxが初めて入ったという。『ゴジラvsコング』は、HBO Max入会の動機付けの大きな要素だとみられている。

『ゴジラvsコング』(c)2021WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.

 このデータをもって、ストリーミングと劇場公開の融合(ハイブリッド)は可能であるということが証明されてしまった。さらには、1億8000万ドルで作られた『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の興行成績がアメリカ国内1億1000万ドル、全世界3億9000万ドル(うち中国は1億3500万ドル、『ゴジラvsコング』は7割増)であったことを考慮すると、ハリウッドで言われる“続編の失敗”は今作には当てはまらなかったことになる。

 映画館の復活が祝福されていた中、4月13日の夕刻に衝撃的なニュースが流れた。ハリウッドの中心地にあり、映画のプレミアや舞台挨拶、Q&Aイベントなどに多く使われてきたランドマーク的存在のシネラマ・ドームなどの映画館チェーンを運営するDecurion社が、全拠点の閉鎖を発表した。報道によると、カルバーシティ(ソニー・ピクチャーズやApple、Amazon Studio、HBOなどがオフィスを構える街)にあるアークライト・シネマズの3月分の家賃不払いにより、3日以内に立ち退き宣告を受けた上での全拠点閉鎖判断だったようだ。映画館やシネコンは昨年1年間の営業停止で家賃の減額や滞納を協議してきたが、3月19日より営業再開が許可されたことによって、特別措置も解除されていた。パンデミック中にはAMCの経営不振が度々話題となり、飲食サービスと独特なキュレーションが売りのインディペンデント系シネコンチェーン、アラモ・ドラフトハウスも連邦破産法の適応を申請した。だがAMCはゲームストップ株騒動に巻き込まれながらも追加融資を調達し、アラモ・ドラフトハウスも再生手続きを行っている。

ハリウッドのアークライト・シネマズ

 ロサンゼルス周辺およびシカゴ、ボストンなど19カ所で展開するアークライト・シネマズは、インディペンデント系作品とブロックバスター作品をほどよく組み合わせたキュレーションと、予告編以外の広告を流さない運営方針で映画ファンの心を掴んでいた。広告がない分チケット代も他の劇場より1~2ドル高いが、ハリウッドにあるシネコンはカフェも併設されていて、ロサンゼルスで映画を観るときに真っ先に候補に上がる劇場だった。ハリウッドにあるシネラマ・ドームは1963年にオープンしたドーム型の映画館で、1998年にはロサンゼルスの歴史文化遺産として登録されている。ロン・ハワード監督の『フロスト×ニクソン』や、クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』にも登場している。閉鎖がニュースで流れた瞬間から多くのハリウッド関係者が嘆き悲しみの声明を出しているが、現在のところ運営を継続する発表はない。

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