『ガンズ・アキンボ』で注目のスクリームクイーン サマラ・ウィービングの“悪魔的魅力”

 『Z Inc. ゼット・インク』も『レディ・オア・ノット』も、“サマラ・スクリーム”が堪能できるのですが、彼女の叫びがなぜ特徴的なのか。それは「悲鳴」ではなく「雄叫び」に近いからなんです。体を傷つけられ、痛みを噛み殺しているような叫び。恐怖だけではなく、その恐怖に対する怒りが、低めの音程で喉を震わせている彼女の発生の仕方から表現されている。「わなわな」と、という表現がぴったりなんですよね。

 従来のスクリーム・クイーンの悲鳴は、“悲鳴”でした。殺人鬼や悪霊、自分より力の強い何かに追われ、為す術もなく叫ぶことしかできないような悲鳴。それは彼女たちのか弱さの象徴のようなものでした。しかし、サマラのそれは違う。彼女の出演作や役柄の選び方にも一貫性を感じるのですが、そのキャラクターは基本的にやられっぱなしではない。『レディ・オア・ノット』で演じたグレースも、わけもわからないまま追われる身になったのにも関わらず、キャーと泣き叫ぶことなく、婚約者に「先に話しとけよ!」と怒りながら、静かにヒールを脱いですぐにコンバースに履き替え、ドレスを破って動きやすい格好になる。『Z Inc. ゼット・インク』もそうですが、彼女の演じる緋色インは戦闘体勢になる速さがエグいんですよね。怒りと不快感丸出しの彼女の叫びは、決してか弱いものではない。それは、長いジャンル映画の中に囚われていたヒロイン像のアップデートでもあると思うのです。

 だからこそ、彼女が『ガンズ・アキンボ』でニックスという最強の戦闘狂を演じたのもぴったりでした。脱色したまゆげが特徴的なコークアディクトなサマラのビジュアルも満点だし、このニックスも少し悪魔的な魅力のある女性で、これでもかというくらい下品な言葉を使いながら無慈悲に敵に立ち向かいます。そんなニックスでも、攻撃を受ける時はもろに受けるのでしっかり痛そうなんですよね。女性とか関係なく、めちゃくちゃに殴られる。サマラの演じる役は、相手のこともボコボコにするし、自分自身も結構ボコボコにされているところが興味深いです。ある意味ジェンダーイコールであり、そういったメタ視点でヒロイン像だけでなく、映画全体のアップデートに繋がっているのかもしれません。

 基本的に血塗れになっていますが、『スリー・ビルボード』や『ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!』などでは普通の若者も演じているサマラ。世界的に知れ渡ってきた彼女の次回作は『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』! 徐々に大作に名をあげてきている彼女から、今後も目が離せません。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。『レディ・オア・ノット』は何回観ても最高。InstagramTwitter

■公開情報
『ガンズ・アキンボ』
全国公開中
監督・脚本:ジェイソン・レイ・ハウデン
製作:ジョー・ニューローター、フェリペ・マリーノ、トム・ハーン
出演:ダニエル・ラドクリフ、サマラ・ウィーヴィング、ネッド・デネヒー、ナターシャ・リュー・ボルディッゾ、リス・ダービー
提供:ポニーキャニオン/カルチュア・パブリッシャーズ
配給:ポニーキャニオン
2019年/イギリス・ドイツ・ニュージーランド/カラー/スコープサイズ/英語/原題:Guns Akimbo/98分/R-15
(c)2019 Supernix UG (haftungsbeschrankt). All rights reserved.
公式サイト:guns-akimbo.jp

関連記事