『俺の家の話』ドラマ史に残る最終回 宮藤官九郎から“俳優”長瀬智也に捧げられた敬意と愛
微妙に噛み合わない会話や、突然消されてしまう稽古場の電気。前半15分の違和感が、さくら(戸田恵梨香)の「亡くなったの」の一言で一気に回収されるCM前。まさかこんな展開が待ち受けているとはと驚くのも束の間、次から次へと描かれる秀逸な描写の数々に、宮藤官九郎という脚本家の巧さと、俳優・長瀬智也に対するこの上ない敬意と愛情が表れつづけた『俺の家の話』最終話。これは長瀬の花道を飾る作品としても、純然と一本のドラマとしても完璧な最終回であり、ただただ脱帽するばかりだ。
脳梗塞による危篤状態から、寿一(長瀬智也)の懸命な掛け声によって奇跡的に一命を取り留めた寿三郎(西田敏行)。そして大晦日の引退試合に向かった寿一。年が明け、寿一は新春能楽会で舞う「隅田川」の稽古に勤しむ。迎えた当日、地謡として参加する寿三郎はある違和感に苛まれる。門下生たちから「御愁傷様」と言われること、まだ到着していない寿一、寿一が着るはずのシテ方の装束をまとった寿限無(桐谷健太)。実は寿一は、大晦日の試合中の事故で、寿三郎よりも先にこの世を去ってしまっていたのである。
前回のエピソードで、葬儀屋を呼んで淡々と寿三郎の葬儀の計画を練っていた姿も、長州力が「戒名考えてやる」と言って寿一の戒名を考えるおとぼけなくだりも、すべて今回のエピソードに繋がっていたのである。そして第8話から繰り返し練習に励んでいた「隅田川」という演目も、その演目が作られた際に世阿弥と長男の元雅との間で息子の亡霊を出すべきか否かで意見が分かれたという逸話を寿三郎がつぶやいた時に、「俺が息子なら出てくるよ。だって会いてえもん」と言っていた寿一の言葉もまた、すべてがこの最終回のためだったなんて。
寿一の突然の死を受け入れられない寿三郎が、「隅田川」の演目中に寿一の幻影と対話するクライマックス。感動的なシーンの合間にユーモラスな描写をアクセントとして加えることでさらにその感動が増幅していく。「国の宝にはなれなかったけど、家の宝にはなれた。観山家の人間家宝」という寿三郎の台詞、褒められたことで消える寿一(しかもちょうど「隅田川」で息子の亡霊が消えるところとリンクする)。一切派手なことをせず、ただ西田敏行と長瀬智也という2人の名優の表情で持たせ、能という題材と、父と息子、家族の物語に説得力を与える。もはや完璧という言葉でしか形容できない、宮藤官九郎ドラマにおける最高のシーンではないか。