完成度はディズニーの歴史上随一 “体感型”の『ファンタジア』は映画館で真価が味わえる

映画館で味わう『ファンタジア』の真価

 アニメーションの歴史の中で、最も影響力を持ち、世界の誰よりも業界やアニメの表現を変革させてきたウォルト・ディズニー。彼が存命中に主導した数々の傑作のなかで、巨額の製作費を投じてスタジオの能力を最大限に発揮するとともに、ずば抜けて前衛的な試みが行われた劇場アニメーション大作があった。それが、1940年公開の『ファンタジア』である。そんな伝説の映画が、再び日本のスクリーンで3月26日より順次上映される。

デイズニー映画『ファンタジア』予告編(30秒・1)

 アメリカでの『ファンタジア』公開から、およそ80年もの歳月が流れた。第二次世界大戦が始まってすぐだったので、日本で初めて劇場公開されたのは、戦後の1955年。そんな本作を、いまあらためて鑑賞することで驚かされるのは、それほど以前の作品にもかかわらず、いまだにその革新性は健在だということだ。人類が滅びたとして、遺跡を発掘しながら文化史を研究する宇宙人が、もし偶然本作を発見したとしたら、「製作された年代が間違っている」と思うかもしれない。本作はまさに、その時代に存在し得ない物品“オーパーツ”のように感じられる。

 これは、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオにとって初めてのことではない。本作が公開される3年前には、アニメーション表現をはるか先まで更新することになった、世界初の劇場長編アニメーション『白雪姫』(1937年)を、すでに公開しているのだ。

 実写をトレースする技術“ロトスコープ”を利用した実在感や繊細なキャラクターの演技、カメラワークによってシーンが持続することによって生まれる臨場感など、画期的な手法を駆使した『白雪姫』の出来は、あらゆる面において同時代のアニメ作品を数十年置き去りにするほど圧倒的なものだった。この、絵画を動かしたような革命的な内容は、子ども向けの愉快な娯楽や、スラップスティックとしてしか見られていなかったアニメーションが、ここまで豊かな表現力と芸術性を持ち、大人の観客をも感動させる重厚なドラマを作り得るという事実は、世界に大きな衝撃を与えることになったのだ。

 そして、本作が公開される9カ月前には、ディズニーの劇場アニメーション第2作である『ピノキオ』(1940年)が公開されている。可愛らしいキャラクターデザインや、立体感と美学に裏打ちされた美術、水中を表現した特殊効果や、飛び散る水飛沫の迫力など、ここではハイクオリティの絵本をそのまま映像化したような内容によって、再びウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオは、圧倒的な力を見せつけることになった。

 このように、アニメーションの分野において人類の文化発展を自らの手で急激に進めてきたウォルト・ディズニーは、芸術的にも価値の高い娯楽大作を手がけると同時に、より芸術性に特化したマスターピースを作り上げる計画を進めていた。それが、クラシック音楽とアニメーションによる映像を極限までシンクロさせて、これまでにない全く新しい映画体験を提供するという、本作『ファンタジア』だったのだ。

 あのディズニーが情熱を注ぎ込んだ新たな大作ということで、大きな期待を受けて開催されたプレミア上映は盛況となったが、観賞後、観客には戸惑う者もいたという。それは本作が、あまりにも時代の先をいった作品だったからだ。多くの観客は、ディズニーに『白雪姫』や『ピノキオ』のような明快な面白さを求めていたのだ。

 アメリカで初めて公開された当時は、興行的な成功が得られなかったが、それは、このような先進性が広く理解されなかったことや、芸術として評価されるには、まだまだアニメーションに対する偏見があったからだろう。ウォルト・ディズニーは、本作について、「『ファンタジア』は、時代を超えるものだ」と述べている。その予言通り、本作はウォルト・ディズニーの死から3年後、1969年のアメリカでの再上映で、優秀な興行成績を収めている。1990年には、歴史的に重要な映画として、映画作品を保護するアメリカの国立フィルム保存委員会に作品が登録されることになった。

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