完成度はディズニーの歴史上随一 “体感型”の『ファンタジア』は映画館で真価が味わえる
このように本作は、科学的な視点からの世界の創生、神話の世界、そして旧約聖書における二元論的な世界という、生物史、人類史における根本的な概念を、アニメーションの中で表現している。その挑戦心や志の高さ、見事な完成度は、ディズニーの歴史やアニメーションの歴史の中でも随一といえよう。
ウォルト・ディズニーは、本作のパートを随時入れ替えながら、いつまでも『ファンタジア』を上映し続けるという、大規模な構想を考えていたという。その企画は実現することはなかったが、本作の意志を受け継いだ劇場作品『ファンタジア2000』(1999年)が、本作の構成を基に、全く異なる曲目で新しい映像を製作しているので、こちらも是非鑑賞してほしい。
だが先進性やスケール、完成度の点で、『ファンタジア2000』は、本作に及んでいない部分が少なくない。このように技術が発達した近年の作品であっても、本作の表現になかなか到達することができないからこそ、本作の素晴らしさや希少性が、年月を経ることで深く理解されてきているといえよう。子どもの頃に自宅で鑑賞して、いまいち魅力が伝わらなかった人であっても、知識や理解力が深まったことで、本作の印象がガラリと変わるのでないか。
もちろん、本作『ファンタジア』は、自宅であっても何度でも楽しみたい名作だ。しかし、とくに体感型の作品である本作は、映画館の大画面と大音量の音響設備で集中して味わうことで、真価が味わえるはずである。今回の再上映は、その意味において非常に貴重な機会だといえる。
■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter/映画批評サイト
■公開情報
『ファンタジア』
3月26日(金)より、新宿ピカデリーほか全国順次公開
製作:ウォルト・ディズニー
監督:ベン・シャープスティーン
指揮:レオポルド・ストコフスキー
演奏:フィラデルフィア管弦楽団
アドバイザー:オスカー・フィッシンガー
脚本:ジョー・グランド、ディック・ヒューマー
ナレーター:ディームズ・テイラー
1940年/アメリカ/カラー/1.33:1/125分/2K DCP/5.1chオーディオ
Photographs (c)2021Courtesy of Disney
(c)Courtesy of Disney
公式サイト:https://www.culture-ville.jp/fantasia