『コロンバス』から『サマーフィーリング』まで 様々な愛のかたちで過ごす“優しい時間”

 サブスク系ミニシアター、ザ・シネマメンバーズで観ることのできるお薦め作を解説する連続企画の第4回。この2月、新たに配信されるのは『コロンバス』『オリ・マキの人生で最も幸せな日』『サマーフィーリング』の3本だ。いずれも人を想うことが静かに綴られていく映画。様々な愛のかたちに想いを馳せながら、ほっこり優しい時間を過ごそう。

第1回:ダルデンヌ兄弟とイオセリアーニ監督の共通項とは “個と社会”の在り様を見つめる4作品を解説
第2回:『悪魔のいけにえ』とヌーヴェル・ヴァーグの共通項は? ザ・シネマメンバーズ配信作から考える
第3回:コロナ禍の今こそ映画で旅へ 『エル・スール』『立ち去った女』など独自の感性極まる4作を紹介

『コロンバス』(2017年/監督:コゴナダ)

 代表的なモダニズム建築が建ち並ぶ米インディアナ州コロンバス。人口わずか4万7千人という小さな地方都市ながら、アメリカ初のモダニズム様式で作られた教会であるエリエル・サーリネンのファースト・クリスチャン・チャーチ(1942年建設)など、街そのものがモダニズム建築の宝庫と呼ばれる。この都市を舞台に、共に人生の岐路に立つ男女の一期一会的な出会いを描く珠玉作が『コロンバス』だ。

 監督は本作が長編デビュー作となった韓国系アメリカ人のコゴナダ(kogonada)。小津安二郎をこよなく敬愛し、自身の名前は唯一無二のタッグを組んでいた脚本家の野田高梧(=コウゴ・ノダ)にちなんでいる。彼はニューヨーク・タイムス紙で「アメリカの近代建築が楽しめる都市ベスト10」にコロンバスが選出されていたことで、この街に興味を持ったという。

 モダニズム建築とは何か? それは産業革命を経て生まれた鉄やコンクリートやガラスなどの工業製品を使った、20世紀型建築のニューノーマル。ドイツの芸術学校バウハウスなどが牽引する形で1920年代にヨーロッパで成立。「近代建築の五原則」を唱えたル・コルビュジエ(1887年生~1965年没)ら勃興期の旗手たちは、19世紀までのゴシックやバロック様式の装飾性を廃し、機能主義と合理的精神に基づく建築デザインを提示した。

 そのシンプルさから「豆腐」と形容されることもあり、これが小津安二郎の「僕は豆腐屋だから豆腐しか作らない」という有名な名言と重なる。無駄を削ぎ落とし、独自のスタイルを引き算で極めていくミニマリズムの洗練と探究。

 本作『コロンバス』の物語はどこか東京を舞台にした『ロスト・イン・トランスレーション』(2003年/監督:ソフィア・コッポラ)にも通じるもので、恋愛を絡めないボーイ・ミーツ・ガール、短くも大切な時間となった心の親密な交流を慎ましく映し出していく。

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