『ワンダヴィジョン』がシットコムとして作られた意味 仕掛けられた“謎”とともに考察する

『ワンダヴィジョン』“シットコム”の意味

 だが重要に思えるのは、そのような謎以上に、本作がシットコムとして作られたこと自体ではないだろうか。前述したように、MCUのヒーロー作品といえば、スーパーパワーを持ったキャラクターたちがヴィランと戦うアクション映画ばかりである。それは当たり前といえば当たり前ではあるが、今回のように、そんな設定が本格的なコメディー作品のなかで活かされたというのは、MCU作品がより多様的な魅力を発揮できるという前例を作ったことを意味する。そして、物語はデヴィッド・リンチ監督のシットコム形式の不気味なホームドラマ『ラビッツ』のような不穏さを醸し出し始めている。

 マーベル・スタジオの作品は好調とはいえ、いつまでヒーローを主人公としたアクション大作が飽きられることになるか分からない。本作『ワンダヴィジョン』は、ヒーロー作品が他の既存のジャンルや未知のジャンルでも通用することを見せていることで、これまでにヒーロー作品に興味を持たなかった人を取り込み、いままでになかった楽しみ方を提供するものとなっている。その意味で本作は、ブームを作り一段落を迎えた、マーベル・スタジオの生存戦略を示す存在だともいえるのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
ディズニープラスオリジナルドラマシリーズ『ワンダヴィジョン』
ディズニープラスにて配信中
監督:マット・シャックマン
脚本:ジャック・シェイファー
出演:エリザベス・オルセン、ポール・ベタニー
原題:WandaVision
(c)2021 Marvel

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