北川悦吏子が描くヒロイン、凄みが増す『麒麟がくる』 ドラマ評論家座談会【後編】
凄みを増す『麒麟がくる』
ーー話はまた変わりますが、大河ドラマ『麒麟がくる』は初の年またぎ大河ドラマとなりました。高視聴率も記録していますが、皆さんどうでしょうか?
木俣:池端俊策さんの脚本が研ぎ澄まされていっていてどんどん面白くなっています。先程の話とは逆になりますが、ベテランだからこそ出せる円熟味がある。芸術性と文学性があり、お話の背景に深い文化的教養があるのが伝わります。そして、それを俳優陣がしっかり体現している。いまはわかりやすい伏線があるものが面白いと言われてしまいますが、もっと観た人がそれぞれの言葉で感じる表現の本質のようなものを観せてもらっている気がしています。放送回を短縮しない決断をされたことは素晴らしいと思いましたし、最後まで応援したいです。
成馬:これまでの戦国時代を舞台にした大河ドラマとは違うテイストの物語になっていますよね。帝とは? 幕府とは? 戦国大名とは? という背景を理解していかないと、話が難しいところもあるのですが、そこを強引に押し切っちゃうところが凄いというか。戦国時代というと、全国の大名が天下統一のために争っていた弱肉強食の乱世だったという印象ですが『麒麟がくる』を観ていると、力関係が複雑な政治的な時代だったのだなぁと思いますね。そのあたりは、現在の政治状況と重なるところも多い。
木俣:そうなんです。だからすごく現代的でもあって、あれだけ遠い世界の話なのに、ちゃんといまの日本も感じる。
田幸:明智光秀(長谷川博己)の人間像もいい意味でどんどん分からなくなっているんですよね。序盤では「影が薄い」と言われ続けていたアクのあまりない善人に見えていたのが、意外に冷酷さを併せ持つ、食えない、腹黒い人間にも思えてきたり。物語も人物造形も一筋ではいかない作品になっていますよね。
木俣:だから「全然イメージと違う!」と思っている視聴者も多いと思います。でも、最後には「本能寺の変」という誰もが知っているゴールがあるから、そこにどう着地するんだろうと気になって観てしまう。この作り方はうまいですよね。
“生放送”ドラマの可能性
ーー2020年は緊急事態宣言によってドラマの撮影ができなくなり、旧作が一挙再放送されるという時期もありました。改めて、2020年のドラマ界を振り返り、最後に締めることができればと思います。
成馬:2020年の“ドキュメンタリー”として、面白い作品は多かったと思うのですが、数年後も面白いといえる強度を保っているかというと怪しいものが多いかなと思います。一方で、2020年は再放送を通して旧作ドラマの魅力が再発見された年だったと思うんですよ。しばらく、コロナ禍が収まる気配もないですし、また撮影が止まれば、テレビは再放送が増えると思うので、新作ドラマをリアルタイムで観て盛り上がるという習慣自体が弱まっていくのかなと思います。視聴者がドラマに触れるタイミングがバラバラになっていくので旧作、新作の意味がなくなっていくというか。Amazon Prime videoに『アンナチュラル』(TBS系)が入った時に話題になり、2020年に初めて観たという人の発言をTwitterでよくみかけたのですが、ストリーミングサービスの普及によって過去のドラマが発掘されて再評価されるケースは今後増えていくと思います。『俺の家の話』の放送に合わせて『池袋ウエストゲートパーク』や『うぬぼれ刑事』といった長瀬智也主演の宮藤官九郎脚本ドラマの配信も開始されましたが、こういった旧作が2021年に再評価されてブレイクする流れがあっても不思議ではないと思います。
田幸:私も2020年のドラマは、ドキュメンタリーというか、ライブを観ているような印象が強かったです。成馬さんがおっしゃったように、何年も残り続ける作品は少なかったかもしれないですが、こんな状況下でも制作した意義は多いにあったと思いますし、改めて作り手たちに感謝したいです。私自身も精神的に疲弊してしまった2020年の中で、実は一番癒やされたのが特撮の『ウルトラマンZ』(テレビ東京ほか)なんです。人間とウルトラマン、どちらも未熟な者同士が協力し合って、レジェンドのウルトラマンたちや仲間たちの力を借りつつ、成長していく王道の物語で。お笑いパートと思っていたギャグ回がすごく重要な伏線で、のちに回収される感動物語があったり、その一方で、宇宙人が人間に恐怖を与えることにより、新兵器をどんどん作らせ、自滅に追い込もうとする「文明自滅ゲーム」という現代的なテーマが描かれたりと、構成も緻密で非常に奥深い内容でした。
木俣:毎日観ることができていたテレビドラマも決して当たり前ではない、ということを実感した1年でした。だからこそ、作り手の皆さんには改めて感謝したいです。現実を観ることがあまりにもしんどい1年でもあったので、田幸さんが『ウルトラマンZ』に癒やされたという気持ちもすごく分かります。あと、ドラマの再放送が評価されたように、『ムー一族』(日本テレビ系)や『寺内貫太郎一家』(TBS系)のような生放送ドラマに今一度挑戦してもいいのじゃないかと思っているんです。原点回帰と言いますか、俳優の力で観せていく作品。『エール』のライブ感はそれに近いところがありましたが、朝ドラで生放送ドラマをやったら絶対に面白いと思います。もちろん、スタッフさんたちは本当に大変だと思うのですが……。
前編はこちら:『MIU404』の“誠実さ”、異例の朝ドラ『エール』 2020年を振り返るドラマ評論家座談会【前編】
■放送情報
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』
日本テレビ系にて、1月13日(金)スタート 毎週水曜22:00放送
出演:菅野美穂、浜辺美波、岡田健史、沢村一樹、川上洋平、有田哲平、福原遥
脚本:北川悦吏子
チーフプロデューサー:加藤正俊
プロデューサー:小田玲奈、森雅弘、仲野尚之(AX-ON)
演出:南雲聖一、内田秀実
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/uchikare/
公式Twitter:@uchikare_ntv
公式Instagram:@uchikare_ntv
大河ドラマ『麒麟がくる』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00~放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00~放送
主演:長谷川博己
作:池端俊策
語り:市川海老蔵
音楽:ジョン・グラム
制作統括:落合将、藤並英樹
プロデューサー:中野亮平
演出:大原拓、一色隆司、佐々木善春、深川貴志
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/kirin/
公式Twitter:@nhk_kirin