北川悦吏子が描くヒロイン、凄みが増す『麒麟がくる』 ドラマ評論家座談会【後編】
北川悦吏子が描くヒロイン
ーー「月9」の担い手だった北川悦吏子さんの新作『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』も1月期に放送されます。恋愛小説家の母親(菅野美穂)と恋とは無縁の二次元オタクの娘(浜辺美波)の物語です。
木俣:母親は北川さんご自身を投影したキャラクターになりそうですね。菅野美穂さん、浜辺美波さん、沢村一樹さん、岡田健史さんとキャスト陣も豪華で楽しみです。ただ、早くも賛否両論を呼びそうな気はしています。
田幸:朝ドラ『半分、青い。』(NHK総合)の鈴愛(永野芽郁)もそうでしたが、北川さんの描くヒロインは非常にエネルギッシュな天真爛漫キャラで、好意的に受け取れない女性が多いですよね。再放送でも話題となった『愛していると言ってくれ』(TBS系)も榊を演じたトヨエツ(豊川悦司)の人気は出ても、ヒロインの紘子(常盤貴子)にはブーイングも多くて。
木俣:自己実現に積極的な言動が「わがままなヒロイン」と評されてしまいますよね。
田幸:そうそう。だから今回も一部の方はイライラしながら、岡田さんや沢村さんら男性キャストを愛でるドラマになりそうな気がします。
木俣:一方で北川さんが描くヒロインがすごく好きという方もいるんですよね。『半分、青い。』も賛否両論がすごかったですが、北川さんには良くも悪くも“ひっかかり”があるものを描いてほしいので、暴れてほしいです。
田幸:現在主流で活躍されているアラフィフ世代の脚本家さんにない爆発的なエネルギーが北川さんにはありますよね。
成馬:『恋する母たち』(TBS系)にも感じましたが、大石静さん、北川悦吏子さん、中園ミホさんら女性脚本家陣は元気ですよね。彼女たちの中では“バブル”がまだ終わっていないんだなと思って、最初は呆れていましたが、最近は観ていて痛快です。
木俣:男女雇用機会均等法ができて、バブルもあって、女性が社会進出を果たしていった時代にデビューした方たちですもんね。頑張ることを肯定されてきた方たちだから、溢れんばかりのエネルギーが今の時代でもずっとあるのかもしれません。
成馬:『半分、青い。』の鈴愛が反発を受けたように、若手女優が北川さん的なヒロインを演じてもあまり支持されないんですよね。TBS火曜22時の『恋はつづくどこまでも』の上白石萌歌、『この恋あたためますか』の森七菜のような等身大のヒロインが支持されている。
田幸:“嫌われないヒロイン”が近年は主流になっていますよね。エネルギッシュでガンガン周りを巻き込みながら突き進んでいくような女性は、いまの世の中的にも、若い世代にも好かれないものになっている。
木俣:いまの20代、30代の人たちは男女に限らず、優しくて自己主張をあまりせずに、人の話を傾聴しようとしますよね。『姉ちゃんの恋人』(カンテレ・フジテレビ系)で、意見に対して何かを返すのではなく、「あなたの気持ちを受け止めた!」ということを描いているのを見て、「自分の道を進む」というよりも、とにかく「受け止める」「受け入れてもらう」ことがいまは求められているんだなと感じました。
成馬:遊川和彦さんの『35歳の少女』(日本テレビ系)のヒロイン望美(柴咲コウ)も、自分の主張をはっきりと他者に伝えるという主張のはっきりとしたヒロインでした。ただ、彼女の精神年齢が実年齢に追いつくにつれて、現実を知り、主張を通すことができなくなって壊れていくという過程が描かれていたのは興味深いですね。天真爛漫なヒロインを描くためには、ここまでひねらないといけないのかと思いました。
木俣:これまでに名前が挙がった脚本家陣はみんなベテランですよね。1月29日に公開される映画『花束みたいな恋をした』は、監督が土井裕泰さんで、脚本は坂元裕二さんと、2人とも1960年代生まれ。50代のコンビが描いた20代の恋愛を、現在の20代は果たしてどう受け止めるんだろうかと気になります。私は素敵だと思ったけれど私も若くないのでわからない……。坂元さんが『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)を20代前半で書いていたように、かつてのドラマは作家陣も若かったと思うんですよね。30年以上にわたり支持され続けている坂元さんはもちろんすごいのですが、やっぱり新しい価値観を提示する若い作家の登場を期待します。
成馬:坂元さんが「ヤングシナリオ大賞」を受賞したのが19歳、野島伸司さんが受賞したのが25歳と、当時(80年代後半)はみんなデビューの年齢が若かったんですよね。フジテレビ自体が新人脚本家を採用することに積極的で、新人作家を即戦力として「月9」で連ドラを全話書かせるという環境があった。安達奈緒子さんや野木亜紀子さんが活躍していることからも明らかなように「ヤングシナリオ大賞」自体は、まだ機能していると思うのですが、受賞しても新人にオリジナル作品を書かせてくれる場がなくなりつつあることが一番の問題なのかと思います。
田幸:一方、『私の家政夫ナギサさん』(TBS系)の松本友香さんや『おっさんずラブ』の貴島彩理さんなど、各局に20代~30代前半の女性の若手プロデューサーも登場してきていますよね。
木俣:その点は希望がありますよね。彼らが若い作家を見つけて育てて、新しいドラマが生まれることを期待したいです
成馬:リアルサウンドブックで『少年ジャンプ』の記事を書いていて思ったのですが、『鬼滅の刃』、『チェンソーマン』、『呪術廻戦』といったヒット作を生み出している作家はみんな20代後半から30代前半で若いんですよね。作家が若いと作品も若返りますよね。日本のエンタメ全般が新鋭作家の育成ができなくなって高齢化している中でジャンプだけが例外的に成功している。ジャンプ漫画に再び注目が集まっているのは、このあたりにも理由があると感じます。