北川悦吏子が描くヒロイン、凄みが増す『麒麟がくる』 ドラマ評論家座談会【後編】

ドラマ評論家座談会【後編】

 2020年の日本のドラマ界を振り返るために、レギュラー執筆陣より、ドラマ評論家の成馬零一氏、ライターの木俣冬氏、田幸和歌子氏を迎えて、座談会を開催(2020年12月某日実施)。

 前編(『MIU404』の“誠実さ”、異例の朝ドラ『エール』 2020年を振り返るドラマ評論家座談会【前編】)では、新春SPドラマ『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』(TBS系)の脚本も手がけた野木亜紀子の『MIU404』(TBS系)や、朝ドラ『エール』(NHK総合)などについて語り合ってもらった。後編では、ベテラン脚本家陣が名を連ねる2021年1月クールドラマへの期待、2月に最終回を迎える『麒麟がくる』(NHK総合)について語ってもらった(編集部)。

“役者”を観ているのか、“物語”を観ているのか

ーー森下佳子(『天国と地獄 ~サイコな2人~』TBS系)、北川悦吏子(『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』日本テレビ系)、福田靖(『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』テレビ朝日系)、宮藤官九郎(『俺の家の話』TBS系)、岡田惠和(『にじいろカルテ』テレビ朝日系)と、1月クールのドラマは、朝ドラ、大河を手がけたベテラン脚本家による作品が並んでいます。

田幸和歌子(以下、田幸):池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)をはじめ、長瀬智也さん、宮藤さんの“間違いないタッグ”による『俺の家の話』は本当に楽しみです。“間違いないタッグ”という点では、綾瀬はるかさん、高橋一生さん、森下さんの『天国と地獄』も確実に面白いのではないかと。あとは深夜帯ですが、原作が抜群に面白い和山やまさんの人気コミックで、監督が塚原あゆ子さんという『夢中さ、きみに。』(MBS)や、山田裕貴さん主演のNHKよるドラ『ここは今から倫理です。』、池脇千鶴さん主演の『その女、ジルバ』(東海テレビ・フジテレビ系)にも注目しています。池脇さんは本当に上手い役者ですし、脇を固める俳優陣も江口のりこさんや、真飛聖さんと間違いない布陣で。

木俣冬(以下、木俣):今年も江口さんの出演作が! 以前からその実力は評価されていましたが、最近、連続してドラマに出演していますね。それはともかく(笑)、私も田幸さんと同じで『俺の家の話』『天国と地獄』には期待しています。あとは、映画化も決まった『バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~』(テレビ東京ほか)。『半沢直樹』(TBS系)や『エール』(NHK総合)は、脚本が多少粗い部分があっても、演じる“俳優”が面白く見せてくれたところもありました。『バイプレイヤーズ』は前作のホンは面白かったし、今回、100人を超える俳優が出演するというだけで観たいなと思いますし、“俳優”を追いかける楽しさが絶対にあるんじゃないかなと。

成馬零一(以下、成馬):『バイプレイヤーズ』は、役者と演じている役の境界線が曖昧になっていて、虚実が混濁したリアリティーショー的な面白さが魅力でした。近年、俳優が本人の役を演じるドラマが増えていますが、今の視聴者がドラマを、“役者”で観ているのか、“物語”で観ているのかと、考えてしまうんですよね。2020年は虚構としてのドラマの力がすごく揺らいだ年だと思っていて、良くも悪くも現実の領域が肥大している。『半沢直樹』の撮影が追いつかずに、役者たちが出演して裏話をする特別番組があったじゃないですか。ソフトの特典につくようなコメンタリーのような番組を放送したわけですが、まだ本編が終わっていない中でドラマの裏側を作り手が説明している状況を観て、それは禁じ手ではないかと思ったんですよね。僕はドラマに“物語”を求めているので、“役者”が全面に出てくる状況には違和感があり、あまり楽しめませんでした。

木俣:確かに、『半沢直樹』の特別編は面白くはあったものの、サービスし過ぎな面もありましたね。「このシーンはどんな思いが込められていたんだろう」「役者はどんなことを思っていたんだろう」と想像する楽しさが作品を観たときにあるわけですが、その答えが“裏話”として放送直後、あるいは放送前にニュースとして出てしまうことが最近増えたように思います。それは『半沢直樹』に顕著でした。役者自身も発信できる時代で、それらが虚構に浸らせない要素にはなっていますよね。これもSNSで“バズる”ことを大事にしていることの弊害かもしれません。とはいえ、1人の人気俳優の魅力ありきの作品を作るスター・システムはかつてからあったわけで。俳優主体の作品も物語主体の作品も、両方がバランスよくあることがベストですよね。

成馬:海外ドラマ『ウォッチメン』(HBO)もすごく面白かったんですが、果たして自分は作品自体を純粋に楽しんでいるのか? それとも「タルサ暴動」を筆頭とする物語と紐付けされた歴史的バックボーンの情報を面白がっているのか「どっちなんだ?」と、困惑したんです。

 物語の中に登場する固有名詞を即座に検索してWikipedia等に紐付けされている関連する情報を読むみたいな行動を延々と繰り返すうちに、自分は物語でなく情報を摂取しているだけなんじゃないかと自問自答することが、最近のドラマを観ていると増えていて。また、リモートドラマが特に顕著ですが、映像の魅力で物語を語るという演出の領域が、いまのドラマはどんどん狭まっている。その意味でも、役を演じる俳優の身体が全面に打ち出される状況は、ある程度は仕方ないと思いますし、元々、物語としてのドラマを観ている視聴者の方が少数で、好きな俳優の演技が観たいという人の方が大多数だったのかもしれない。「ドラマにおける物語の存在意義って何だろう?」ってことを、最近よく考えます。

木俣:物語自体の力が弱まってる感じが確実にありますね。知らないことに興味を持てなくて、「この俳優知ってる、この展開知ってる」という知ってることに安心するための作品を観る層が増えたせいか、捻った物語に挑戦できなくなっている。

成馬:だから最近は、演じている役者のことをまったく知らない韓流ドラマの方が素直に楽しめるんですよね。Netflixで配信されている『スタートアップ:夢の扉』という韓流ドラマが好きでハマっているのですが、かつての「月9」ドラマのような雰囲気があるのが興味深くて。たぶん、いまの韓国は、日本で言うと80年代後半~90年代前半のような雰囲気なのかなぁとドラマを観ていると感じます。もちろん学歴至上主義で、財閥を頂点とした貧富の格差が酷いというつらい現実もちゃんと描かれているのですが、弱者が這い上がるチャンスはあるという前向きな物語になっている。こういう「憧れ」を換気するドラマはもう日本では作れなくなっているんですよね。2020年の2月からNetflixの国内ランキングが表示されるようになったのですが、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』といったアニメと『愛の不時着』や『梨泰院クラス』といった韓流ドラマが独占している。たぶん、昔なら「月9」を観ていたような視聴者を取り込むことに成功しているのだと思います。そんな状況の中、国内制作のNetflixドラマでは、『今際の国のアリス』が奮闘しているのですが、この流れが今後どうなるのか注目したいですよね。

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