『アーヤと魔女』で宮崎吾朗の真価が試される? フル3DCGで父親の影から脱却なるか

『アーヤと魔女』宮崎吾朗の真価が発揮?

父の介入を排した『アーヤと魔女』

 『アーヤと魔女』の原作は、『ハウルの動く城』で知られるダイアナ・ウィン・ジョーンズの児童小説だ。幼少期から孤児院で育った10歳の少女アーヤは、自分の思い通りになる孤児院暮らしを気に入っていたが、ある日魔女ベラ・ヤーガに引き取られることになる。

 この原作を選んだのは宮崎駿だそうだが、吾朗監督は「これは自分の趣味だ」と感じたそうだ。『山賊のむすめローニャ』といい、吾朗監督は児童文学が好きなのだろう。

 本作を制作するために、ジブリは海外からアニメーターを招聘している。アニメーション・ディレクターにはマレーシア出身のCGアニメーター、タンセリを起用して、彼を慕って世界中からCGアニメーターが参加しているとのことだ。(※5)これまでのジブリを支えたスタッフとは異なる人々が参加している点は重要だ。そのメンバーが、吾朗監督の目指す芝居で魅せるCGアニメが実現できているかどうかが『アーヤと魔女』を評価する際、最も大きなポイントになるだろう。

 そして、これまで宮崎駿の介入の中で制作を強いられてきた吾朗監督だが、フル3DCGという手法はそこからの自由を意味する。吾朗監督自身、「フル3DCGでやれば介入の余地は相当狭まるはずだという目論見はありました」と語っている。(※6)『コクリコ坂から』は宮崎駿の感性で書かれた脚本を、宮崎駿の鍛えたスタッフを使って映像化したものだった。しかし、今回はそうした父の感性とは異なる、吾朗監督自身の感性が映像に定着しているのかもしれない。何しろ、父が介入不可能な手法で作ったわけだから。

 『アーヤと魔女』では、吾朗監督が『コクリコ坂から』の時に成し得なかった、制作面での父殺しがようやく果たされるかもしれない。その時、私たちは宮崎吾朗が何者であるのか、本当の意味で知ることができるのではないだろうか。宮崎吾朗は何者なのか。ぜひとも「只者ではない」と私たちに思わせてほしい。

参考・引用資料

※1:『どこから来たのか どこへ行くのか ゴロウは?』徳間書店、P100
※2:『どこから来たのか どこへ行くのか ゴロウは?』徳間書店、P111
※3:『どこから来たのか どこへ行くのか ゴロウは?』徳間書店、P117
※4:<月刊ジブリパーク> パークの設計図(3) 3DCGアニメ制作との共通点|中日新聞Web
※5 :SWITCHインタビュー 達人達「鈴木敏夫×津野海太郎」2020年11月28日、NHK Eテレにて放送
※6:『どこから来たのか どこへ行くのか ゴロウは?』徳間書店、P117

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■放送情報
『アーヤと魔女』
NHK総合にて、12月30日(水)19:30〜20:52放送
声の出演:寺島しのぶ、豊川悦司、濱田岳、平澤宏々路
企画:宮崎駿
原作:ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『アーヤと魔女』(田中薫子訳)
脚本:丹羽圭子、郡司絵美
キャラクター・舞台設定原案:佐竹美保
音楽:武部聡志
音響演出:笠松広司
アフレコ演出:木村絵理子
キャラクターデザイン:近藤勝也
CGスーパーバイザー:中村幸憲
アニメーションディレクター:タン セリ
背景:武内裕季
アニメーションプロデューサー:森下健太郎
プロデューサー:鈴木敏夫
制作統括:吉國勲、土橋圭介、星野康二
監督:宮崎吾朗
制作・著作:NHK、NHKエンタープライズ、スタジオジブリ
(c)2020 NHK, NEP, Studio Ghibli

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