移民を描いた米国資本映画『ミナリ』は外国語映画 ゴールデングローブ賞の規定にハリウッド憤慨

 例年だと年明け最初の日曜日に行われる、ゴールデングローブ賞。ちょうどアカデミー賞のノミネーション投票の最中に授賞式が行われることから“アカデミー賞前哨戦”と呼ばれ、ビバリーヒルズのホテルに集まるセレブの姿が全米に生中継される、賞レースの中でも最も派手なイベントだ。ゴールデングローブ賞は、1940年代にロサンゼルスを拠点にハリウッド映画の取材を行っていた外国人記者たちが結成したHFPA(ハリウッド外国人記者協会)が主催。HFPAには現在、87名の外国の媒体に執筆/提供するジャーナリストが所属している。

『ミナリ』Photo by Melissa Lukenbaugh, Courtesy of A24

 大きなバックラッシュが起きたのは、ゴールデングローブ賞のノミネーション発表まで1ヶ月以上ある、12月23日のこと。今年1月のサンダンス映画祭でプレミア上映されて以来ずっと前評判の高かった『ミナリ』が、ゴールデングローブ賞の作品賞選定ルールによって弾かれてしまった。規定によると、ミュージカル/コメディ部門、ドラマ部門ともに作品賞候補作は、50%以上が英語による作品が対象。外国語映画賞は、「受賞前の14ヶ月間に自国で初公開された70分以上の長編映画で、英語以外の台詞が51%以上含まれているもの」と認定、同賞に応募された作品は「作品賞(ドラマ部門、ミュージカル/コメディ部門)を除く他のすべての映画部門の受賞対象」となり、HFPAは毎年春にルールを見直しているという。『ミナリ』は韓国語が占める割合が高く、同作のプロデューサーが応募した「外国語映画賞」カテゴリーにて審査される。

ブラッド・ピット(左)とレオナルド・ディカプリオ(右)(HFPA Photographer)

 韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チャン監督による『ミナリ』(韓国語でセリの意味)は、1980年代に韓国からアメリカに移民した一家の“アメリカン・ドリーム”を描く作品。サンダンス映画祭では審査員グランプリと観客賞を受賞している。両親の代でアメリカに渡ってきた韓国系二世のチャン監督による脚本・監督、そして父親役を演じたスティーヴン・ユァン(『ウォーキング・デッド』、『バーニング 劇場版』)にも賞賛が集まり、ユアンはアジア系俳優初のアカデミー賞主演男優賞ノミネート確実との評判も聞こえてくる。ブラッド・ピットの製作会社PLAN BとA24が共同製作し、ピットとユアンは製作総指揮にも名前を連ねている。サンダンスでこの作品を観た際、移民第一世代である父親を描くことにより、アメリカで教育を受け、アメリカ人として生きることを余儀無くされる二世が、現在のアメリカという国を作り上げてきた歴史に思いを馳せる作品になっていると感じた。そして、ほとんどのアメリカ人(と呼ばれる人々)は、歴史を辿れば皆、このような思いを抱えて新しい大地を目指した人々なのだ。声高に移民排除を訴える人間がトップに立ち、それに賛同する民衆が暴挙を振るう世界に、静かに抗う映画だった(参考:アメリカで成功を夢見る韓国人一家を描く サンダンス映画祭2冠、A24×PLAN B『ミナリ』公開決定)。

ルル・ワン監督(右)とパートナーのバリー・ジェンキンス監督(左)(HFPA Photographer)
『フェアウェル』主演のオークワフィナは第77回ゴールデングローブ賞ミュージカル/コメディ部門で主演女優賞を受賞(HFPA Photographer)

 ところが、よりによってアメリカで働き暮らし、自国のメディアにハリウッドの現状を伝える役目を持つ外国人記者たちが選ぶ賞が、「英語以外の作品は外国語映画としてしか評価しない」と宣言してしまった。事の発端は『ミナリ』が外国語映画賞に応募されたことなので多少ミスリーディングな部分もあるが、問題視されているのはゴールデングローブ賞の前時代的なルールだ。この事実が報道されると真っ先に声をあげた映画人の一人がルル・ワン監督。自身の『フェアウェル』(2019年)は、アメリカ国籍の製作会社による制作、中国系アメリカ人のルル・ワンによる監督・脚本、韓国系アメリカ人のオークワフィナが主演にも関わらず、映画の大半が中国語のためにゴールデングローブ賞外国語映画賞候補にカテゴライズされていた。

 ルル・ワン監督は、「今年、『ミナリ』よりもアメリカを表した映画はなかった。これはアメリカで、アメリカンドリームを追い求める家族の物語だ。英語を話す人種だけがアメリカ人だと特徴付ける時代遅れのルールを変える必要がある」とツイートしている。

 マーベルの『シャン・チー』で主演を務める俳優のシム・リウも、「念のため言っておくと、『ミナリ』はアメリカを舞台にアメリカ人が監督・脚本を、アメリカ人俳優が主演を務め、アメリカの製作会社によって制作されたアメリカ映画です」「そしてネタバレなしに言うと、移民の家族が無の状態から人生を築こうとする美しい物語です。これ以上にアメリカを表した物語があるだろうか?」と書いている。

 この他にもフィル・ロード(『スパイダーマン:スパイダーバース』脚本・製作)、ダニエル・デイ・キムなどアジア系、非アジア系問わず多くのハリウッド関係者が反対意見を唱えた。

関連記事