『ワンダーウーマン』で描かれた歴史は現在とリンク 問題や可能性を内包した大ヒット作を振り返る

 一方で言及しなければならないのは、イスラエル出身で従軍経験のあるガル・ガドットが、SNS上でイスラエル軍がパレスチナのガザ地区に攻撃したことについて、支持を表明するメッセージを発して批判されたという点についてだ。この戦闘では男性、女性、大人と子どもに限らず、ガザ地区の多くの市民が死亡・負傷している。この事態によって『ワンダーウーマン』は、複数のアラブ諸国で上映が禁止されることとなった。

 これは、香港やチベット、ウイグルやモンゴルなどに政治的な圧力をかけている中国当局を支持したことで反感を持たれた、『ムーラン』(2020年)の主演俳優リウ・イーフェイの経緯とも重なる。このような俳優たちが、自国や祖国での立場があるとはいえ、ヒーローを演じることについて、違和感を持ったり拒否反応を示す観客がいるのは当然かもしれない。

 だが、このような事態もまた現代の社会がまだまだ暴力的で、過去の戦争の教訓を活かしきれない状態にあることの証拠であるともいえる。本作『ワンダーウーマン』は、そこで描かれる歴史と現在とがリンクすることを、ここでも思いがけず表現することになった作品だといえるのだ。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■放送情報
『ワンダーウーマン』
フジテレビ系にて、12月26日(土)26:00~放送(一部地域を除く)
監督:パティ・ジェンキンス
 出演:ガル・ガドット、クリス・パイン、コニー・ニールセン、デヴィッド・シューリス、ダニー・ヒューストン、エレナ・アナヤ、ロビン・ライト、サイード・タグマウイ、ルーシー・デイヴィス
(c)Warner Bros. Entertainment Inc. TM & (c)DC Comics

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