2020年の年間ベスト企画

年末企画:杉本穂高の「2020年 年間ベストアニメTOP10」 作品を提供してくれた関係者に感謝を

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2020年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、アニメの場合は、2020年に日本で劇場公開・放送・配信されたアニメーションから、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第8回の選者は、神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人で、現映画ライターの杉本穂高。(編集部)

1. 『ウルフウォーカー』
1. 『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
3. 『新しい街 ヴィル・ヌーヴ』
4. 『Away』
5. 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
5. 『劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」III.spring song』
7. 『ミッドナイト・ゴスペル』
8. 『映像研には手を出すな!』
9. 『音楽』
10. 『ドロヘドロ』

 まず今年は無事に作品が公開・放送・配信されただけでもありがたい年である。例えば、毎年恒例の劇場版『名探偵コナン』シリーズの公開が1年延期となったが、心待ちにしていたファンには辛い年となったかもしれない。多様な生き方が尊重される時代になり、コンテンツが生きがいという人も増えている。そういう人にとっては1年という時間は決して短くないだろう。

 まずは、目標の売上を上げられるかわからない不安な時期にもかかわらず果敢に作品を提供してくれた関係者に厚くお礼を申し上げたい。とはいえ、延期の決断もやむにやまれぬものであり、その決定を批判する気持ちもまったくない。長く待った分、素晴らしい鑑賞体験が待っているはずだ。

 以下、各作品の選考理由を簡単に記していく。

『ドロヘドロ』

 筆者が日本アニメを好きなのは、こういう作品があるからだ。この強烈にアングラな香り漂う作風がたまらない。3DCGと作画のハイブリッド技術も大変高い。こういう、異様なアイデアの作品をもっと観たい。

『音楽』

『音楽』(c)大橋裕之 ロックンロール・マウンテン Tip Top

 スマッシュヒットとなった国産インディペンデントアニメーション映画。一般的な商業アニメ作品とは異なる場所に、アニメーションの市場を拡大するという点で、本作の意義は非常に大きかったのではないか。ロトスコープで描かれた演奏シーンは圧巻。衝動を形にするとはこういうことかと感心した。

『映像研には手を出すな!』

 湯浅政明監督と原作の相性が抜群に良かった。今年は劇場版『SHIROBAKO』も公開されたが、視点とアプローチの違いを比べると興味深い。最も大きな違いは、プロデューサー気質の金森がメインキャラクターの一人であることだろうか。創作の情熱を描く作品の場合、プロデューサーは障害として描かれることも少なくないが、金や人的資源を管理することも、実はクリエイティブなことなのだ。

『ミッドナイト・ゴスペル』

『ミッドナイト・ゴスペル』Netflixにて独占配信中

 姿かたちの変容、原形質的な魅力に溢れた作品だった。それはナラティブな面でも映像面でもそれが存分に活かされていたし、作品全体のテーマと直結していた。肉体を捨てる日が、私たちの現実にもいつか訪れるかもしれない。そういう変容の時代に耐えうる感性を持つことができるだろうかと考えてしまった。そして、死と生と輪廻を巡る最終話の壮大さに驚愕した。

『劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」III.spring song』

『劇場版「Fate/stay night [Heaven’s Feel]」III.spring song』(c)TYPE-MOON・ufotable・FSNPC

 堂々たる大作だった。次に紹介する『鬼滅の刃』にも言えることだが、ufotableは原作理解度が深い。そして、その深い理解度を映像で示すことができる。原作に忠実に映像化するには、単純に原作をなぞって出せばいいわけではない。漫画や小説、ゲームを咀嚼し、映像に翻案する力、原作の魅力の本質を見抜き、映像ならどう表現すべきかを的確に見抜いている。本作においてはラストカットがその深い理解を端的に示していたと思う。本作と『鬼滅の刃』どちらも甲乙つけがたかったので、同点とさせてもらった。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

 記録的大ヒットで2020年という年を代表する1本となった。このエピソードが映画作品として描かれて本当に良かったと思う。連載でも取り上げたが、原作のエピソードの中で最も映画にふさわしかったと思う。映画はモーションでエモーションを描くもの、列車が象徴するモーションに始まり、最期に訪れる別れのエモーションまで緩みなく演出された映像はひと時も目が離せない素晴らしいものだった。

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