『MIU404』の裏テーマは“正義を語る”だった 脚本家・野木亜紀子が裏話とともに明かす制作秘話

14話から11話へ、それもまた「not found」

――実際に“nogi note”でも、「スタッフからアイデアを募り」という部分もありましたね?

野木:『MIU404』は、もともと14話という少し長いドラマを予定していたので、「これ書いてほしいみたいなネタがあれば書くよ」と言ってあったんです。そうしたら塚原あゆ子監督がスタッフからアイデアを募ってくれたり、新井順子プロデューサーからも簡単な箇条書きをもらったんですよ。もらったんですけど、どれも本当に一行程度のアイデアなので「これをどうしろっていうんだ!?」というものばかりで(笑)。「どこかで使えるところがあったら使うよ」なんて言ってたなかで使ったのが、7話のあの部分でしたね。

――「撮影前日滑り込みでお願いした」というお話もありましたが、ギリギリでアイデアを反映させていくというのも興味深かったです。

野木:全く褒められることじゃないんですけど、執筆と並行して撮影していると、ときどきあるんですよね。今回は菅田将暉さん演じるクズミの動きだったんですけど。4機捜の人たちにとってクズミの顔がわからない状態でイメージ映像が入ったとき、やっぱり特徴的な何かをつけなければと思ったんです。昔からある手法で言えば、“腕にドラゴンのタトゥーが入っている”とか“変わったプレスレットを付けている”みたいなのもあるんですけど、今どきそれもベタなので。特徴を動きで見せたほうがいいのかもなと思って「まだ足せる?」って訊いたら「撮影は明後日です」っていうから「じゃあお願いします」って(笑)。今度発売される『MIU404 シナリオブック』では、その箇所は差し込み原稿を反映させた形で収録しています。

――もともと14話だったというお話でしたけれど、あと数話あったらこのアイデアを活かしたかった、という構想はありましたか?

野木:無線大会や職質大会はやりたかったですね。事件を想定した技術を競う大会が警察署内であるそうなんです。今までドラマで見たことがないし面白いよねって、結構取材もさせていただいてたんですが、日の目を見ずに終わってしまいました。あと、本当はちょっと権力の話もやりたいと思っていたんですけど、できなかったな。ただ、もはや今となっては全11話で完成したものなので、それもまた「not found」というか。

――あったかもしれない世界線……。

野木:そうですね。でも今の世界線では存在しません。

今こそ、正義を語る意味があるんじゃないか

――権力の話を描きたかったとおっしゃいましたが、全体を通して正義に対して改めて考えさせられるストーリーだったと思います。

野木:正義については、今ちょっと必要なんじゃないかという気がしているんです。そもそもこのドラマを始める前に、実は新井プロデューサーと編成の人に「今回、表立っては言わないけれど、正義の話をちゃんとしないといけないんじゃないかと思っている」とは話していて。公式メモリアルブックに、メインキャラ5人がそれぞれ正義をどうとらえているかが掲載されているんですけど、企画書から取っているんです。人物設定をするときに、それぞれ正義をどう思っているのかというところを考えたので。10年くらい前、アメリカ映画で「正義を疑う」「正義とはなんぞや」みたいなテーマが一時期広がったと思うんです。その後はなんとなく食傷気味というか、「また正義話か」みたいなムードもあったんですけど、この数年の世の中の様子を見ていて、もう一度ちゃんと考えたり、表現しなきゃいけないんじゃないかという気がして。今こそ、正義を語ることに意味があるんじゃないかと。

――新井プロデューサーは、なんておっしゃっていましたか?

野木:新井さんも編成の人も「え、10年前にそんな空気あったんですか?」って(笑)。それを聞いて、ドラマ視聴者にとっては全然食傷気味じゃないんだなと思って、「じゃあ、やるよ」って。そういう流れで、裏テーマとして正義を語ろうと決めたんですが、やっぱり正義ってすごくデリケートなもので、刑事ドラマは今回初めてやったんですけど、本当に難しいなと思いました。

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