『悪魔のいけにえ』とヌーヴェル・ヴァーグの共通項は? ザ・シネマメンバーズ配信作から考える
『ラ・ジュテ』(1962年/監督:クリス・マルケル)
実のところヌーヴェル・ヴァーグには幾つか枝分かれした流派があり、先述の『カイエ・デュ・シネマ』派と良きライバル関係(?)にあったのが「左岸派」と呼ばれるグループ――アラン・レネ、アニエス・ヴァルダ、そしてクリス・マルケルらだ。彼らは一様にドキュメンタリー出身の行動派であり、特に作家、ジャーナリスト、写真家としても精力的な活動を繰り広げていたクリス・マルケルは、『私は黒人』(1958年)のジャン・ルーシュらと並んで「シネマ・ヴェリテ」(ヌーヴェル・ヴァーグや、米のダイレクト・シネマと同時期のフランスで登場した、インタビュー形式を用いた記録映画の系譜)の代表選手でもある。
そのクリス・マルケルがドキュメンタリーを離れて監督した異色SF短編が『ラ・ジュテ』だ。第三次世界大戦後のパリを舞台設定とし、白黒のスチール写真とナレーションのみで構成。荒廃した地上を逃れた人類が、地下で暮らすようになった未来から、世界の救済のため、科学者たちの手により囚人(奴隷)が過去に送られる……という一種のタイムトラベルもの。「時間」と「記憶」という主題をめぐる戦慄の29分。主観と事実が混濁する構造には、ヌーヴェル・ヴァーグにとっての神、アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』(1958年)からの影響が認められる。
アヴァンギャルドな実験作の範疇に入る『ラ・ジュテ』だが、なんとハリウッド大作としてリメイクされており、それがテリー・ギリアム監督の『12モンキーズ』(1995年)だ。主演はブルース・ウィリスで、新進時代のブラッド・ピットも快演。クリス・マルケルが設計した物語の骨子をジョージ・オーウェル風の管理社会のヴィジョンに接続させた良質のSFエンタテインメントであり、2015年には全13話のドラマシリーズにも展開した。
ヌーヴェル・ヴァーグの土壌から生まれた傑作が、30年以上経ち、ハリウッド娯楽の「原型」になった。遠いようで実は近い、そんな両シーンをつなぐ貴重な例としても、一生に一度はぜひ観ておきたい。
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■森直人(もり・なおと)
映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「朝日新聞」「キネマ旬報」「TV Bros.」「週刊文春」「メンズノンノ」「映画秘宝」などで定期的に執筆中。
■配信情報
『悪魔のいけにえ』『ピクニック』『ラ・ジュテ』
ザ・シネマメンバーズにて、12月1日(火)より配信
ほか多数作品、ザ・シネマメンバーズにて配信中
ザ・シネマメンバーズ公式サイト:https://members.thecinema.jp/