原作を時代性から解放 『ジオラマボーイ・パノラマガール』は“あの頃”を振り返る作品ではない

 『ヘルタースケルター』『リバーズ・エッジ』『チワワちゃん』など、これまで様々な監督によって映画化されてきた岡崎京子の漫画。そのすべてが90年代以降の作品で、そこには岡崎作品の特徴である死の影が横たわっていた。そんななか、新たに映画化される『ジオラマボーイ・パノラマガール』は、まだ岡崎が作家性を確立する前夜、1989年の作品。そこで展開されるのは、少女漫画で何度も描かれてきた「ボーイ・ミーツ・ガール」の物語だ。

 東京に住む女子高生、渋谷ハルコ(山田杏奈)は、友達のカエデ(滝澤エリカ)やマル(若杉凩)と平凡な毎日を送っていた。そんなハルコの前に突然、現れたのが「元」高校生の神奈川ケンイチ(鈴木仁)。ある日、特に理由もなく学校を辞めたケンイチは、スケボーを持って街をぶらぶらしていた。そこで声をかけた年上の女性、マユミ(森田望智)に夢中になるが、マユミの彼氏に殴られて橋の上で倒れているところをハルコに助けられる。ケンイチとの出会いを「運命の恋」だと思い込み、ドラマティックな妄想を膨らませていくハルコ。一方、大人な魅力を漂わせたマユミに惹かれるケンイチ。二人は暴走する恋心を胸に抱いて東京を走り回る。

 本作の監督を手掛けたのは、『PARKS パークス』(2017年)の瀬田なつき。岡崎は少女漫画のフォーマットを再構築して、80年代的なポップでシニカルなラブストーリーを生み出したが、岡崎漫画の魅力はセリフ、と感じた瀬田は、セリフは極力オリジナルのものを使用。岡崎漫画のエッセンスを大切にしながら、自分のスタイルで原作を再構築した。なかでも、魅力的なのが瀬田作品らしいキャラクターの描き方で、「動き」を通じてキャラクターを魅力的に見せていく。それはリアリティを追求した重みのある演技でもないし、テレビドラマのようなデフォルメされた演技でもない。ケンイチが突然、教師にキスしたり、ケンイチの家を覗いていたハルコが水をかけられたり、そういう思いがけないアクションも交えながら、登場人物たちは浮き足立ったような軽やかさで動き回り、その浮遊感がどこか現実離れした思春期を生きる少年少女の息遣いを感じさせる。

 ケンイチは、マユミをはじめハルコや姉など女性たちに翻弄されっぱなし。いつも女性たちの周りで右往左往している。ボーッとしてて何を考えているのかわからないケンイチを演じたのは鈴木仁。もともと本人のキャラと役柄が近かったらしく、無駄な演技をしないことでケンイチを飄々と演じている。一方、どんどん想いが空回りしていくハルコを演じたのは山田杏奈。これまではシリアスな役回りが多かったが、今回初めて明るくコミカルなキャラクターに挑戦して新しい一面を見せてくれる。