追悼ショーン・コネリー “初代ジェームズ・ボンド”を演じた名優の業績と人気の理由を振り返る

追悼ショーン・コネリー

 80年代後半からは、ウンベルト・エーコ原作の『薔薇の名前』(1986年)に主演したことで、作品ともども芸術性において高い評価を得ることとなる。そして劇中、クリスチャン・スレーターが演じる若い世代の役に教えを与えるように、コネリー氏は多くの男性がそうなりたいと願うような存在から、下の世代に向けて、ある種の精神性を示す役割をも担うようになっていく。

 『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989年)では、ハリソン・フォード演じる主人公の父親を演じ、90年代以降は『ザ・ロック』(1996年)や『小説家を見つけたら』(2000年)などでも、主人公を導く役柄を演じた。そんな役割を背負うことを、20年ほどの長期間にわたって維持し得たのは、もともとのコネリー氏の頑健さがあったためだろう。大柄で鍛え上げられた肉体は加齢の波を乗り越え、健康的な若々しいシルエットを保ち続ける。頭髪が薄く白くなることで、それはそれで男性的な印象へと変化していくのだ。

 とはいえ、コネリー氏のイメージは、そのような外見ばかりではない。彼はイギリスのスコットランド地方出身であることに強い誇りを持っていた。だからジェームズ・ボンド役を務めるときも、あえて自分の喋り方や特徴を矯正せずに演じたのだという。おかげで、ジェームズ・ボンドはスコットランド出身という設定が後付けで加えられることとなった。そんな経緯があって、じつは『007 スカイフォール』(2012年)では、ダニエル・クレイグ演じるボンドがスコットランドに帰郷する展開において、ある役柄でコネリー氏を出演させる案もあったらしい。

 イギリスという国の正式名称は、「ユナイテッド・キングダム・オブ・グレイト・ブリテン・アンド・ノーザン・アイルランド」。イングランド、スコットランド、ウェールズからなる3つの王国の集まりと、北アイルランドを合わせたものを指し、日本ではその通称として「イギリス」という呼称を使用することが一般的だ。だがイギリスのそれぞれの地域の出身者は、“イギリス人”であると同時に、“イングランド人”だったり“スコットランド人”であるという、二重のアイデンティティを持っている場合がある。

 コネリー氏は、そんな自分のアイデンティティを、富と名声を得る役柄を演じることよりも大事なものととらえ、優先させたのである。そのような郷土愛、愛国心を持つということ自体については様々な意見があるだろうが、少なくともコネリー氏には、何があっても自分自身の大事なこだわりを曲げない気持ちがあったということは確かだ。そして、このこだわりがコネリー氏の演技に長年の間、強い影響を与えていたことも間違いない。

 『ドラゴンハート』(1996年)では、ドラゴンの役をコネリー氏が声で演じていた。誇りあるドラゴンの口からは、コネリー氏の声と炎が吐き出されるのである。われわれは彼のどんな時代の役に触れていようと、ショーン・コネリーという存在から、このような熱い信念を感じとっていたのかもしれない。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

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