『エール』まるで最終回のような大団円 二階堂ふみの歌声に込められた音楽の素晴らしさ

『エール』まるで最終回のような大団円

 最後の曲は裕一と鉄男が共作した「蒼き空へ」。裕一が弾くピアノの音色に合わせて、音は生き生きとした姿で歌を観客に届ける。さあ羽ばたけ、途切れたあの夢のつづきへと。まるで裕一と約束した夢のつづきを果たす音の姿を表すかのような楽曲だ。

 オペラの舞台を降板したからといって、つづく道が閉ざされたわけではない。大きなステージだろうが小さなステージだろうが、はたまた上手だろうが不器用だろうが、そんなのは大した差じゃない。作り手、歌手それぞれに歩んできた人生があるからこそ、音楽は心を震わせる。前週の久志もそうだが、どん底を経験した人間だから歌える曲があり、観客に響くものがある。その証拠に、教会にいた観客は涙を滲ませ、またある人は笑顔を浮かべていた。

 慈善音楽会の舞台に立った音の姿は、不思議と父・安隆(光石研)に促されて教会で歌った幼少期の音と重なって見える。心から音楽が好きだという気持ち、目の前の人たちを喜ばせたいという願いが溢れ、これまで歌ってきたどの場面よりも伸び伸びとした音の姿が印象的だった。そんな母の姿に、反発していた華の心も揺れる。吟(松井玲奈)が語った「才能は普通の日常の中にも転がっている」という言葉を、教会にいた人たちに歌でエールを送った音の姿を見て実感したのだろう。作曲家の父や歌手を目指した音のように、目立った才能や大きな目標がなくてもいい。大事なのは、その奥に隠れた誰かを想う気持ちなのだから。

 『あさイチ』でMCの博多大吉が思わず「今日が最終回ではないんですか?」と困惑したように、ある意味『エール』が大きな区切りを見せた第21週。だが、最終回まであと3週間は残されている。最後まで、音楽で彩られた裕一と音の物語を見届けよう。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる