マーク・ラファロ主演作からジョーダン・ピール最新作まで! 識者が語り合う2020年の海外ドラマ【後編】

 2020年の名作海外ドラマをチェックする上で欠かせないのが、Amazon Prime Videoチャンネルの‎「スターチャンネルEX -DRAMA &CLASSICS-」。

 今、観るべき海外ドラマについて、映画・海外ドラマライターの今祥枝氏、海外テレビシリーズウォッチャーのキャサリン氏、映画プロデューサー・コラムニストの田近昌也氏を迎えて、座談会を開催。

 前編(参考:『キング・オブ・メディア』と『ウォッチメン』は裏表の存在? 識者が語り合う2020年の海外ドラマ【前編】)では、9月に発表された第72回エミー賞の結果を軸に『ウォッチメン』や『プロット・アゲンスト・アメリカ』から“歴史改変もの”の流行、『ウエストワールド』のジョナサン・ノーラン、映画『TENET テネット』のクリストファー・ノーラン、ノーラン兄弟の活躍を振り返ってきた。

 今回の後編では、「スターチャンネルEX -DRAMA &CLASSICS-」で配信中、また「BS10 スターチャンネル」の最新作から来年以降の作品への期待、識者たち一押しの作品について語ってもらった。

HBOが“ティーンもの”を作ったら?

――ゼンデイヤがドラマ部門の主演女優賞を受賞した『ユーフォリア』(HBO)……こちらは、田近さんのおすすめでもあります。

『ユーフォリア』

田近:僕は、もともと“ティーンもの”が好きで、『13の理由』(Netflix)とかもすごく好きだったんですけど、『ユーフォリア』は、さらにその先の“今”をよく捉えているドラマだと思っています。高校生といういちばんナイーブな年代に、人種の問題とかセクシャリティの話をうまく組み込んでいて、秀逸なストーリーになっているんですけど、それに加えてこのドラマは、映像がものすごく綺麗なんですよね。そういうビジュアルの部分では、飛び抜けたドラマだったと思います。

今:『ユーフォリア』は、良かったですよね。私は、“ティーンもの”を、ジャンルとして特別追っているわけではないんですけど、やっぱり『13の理由』のシーズン1には、すごく衝撃を受けて。HBOのドラマでティーンが主人公っていうのは、結構なチャレンジだったと思うんですけど、HBOが“ティーンもの”を作ったら、こうなるのかっていう。それはまた、『13の理由』とは違った意味で驚きだったというか、田近さんがおっしゃっていた映像の美しさも含めて、Z世代のエモーションみたいなものが、すごく表れたドラマだったなというのは思いましたね。

『ユーフォリア』

田近:アメリカでドラマをヒットさせるためには、「セックス」、「ドラッグ」、「バイオレンス」の3つの要素が必要だと言われていて、それがだんだんティーンの子たちのドラマの中にも適用されてきているというか、『ユーフォリア』は、その全部が入っているんですよね。それはきっと、実際のアメリカ社会を反映していることでもあって……アメリカのティーンの子たちが、このドラマをどう観たのかっていうのは、ちょっと気になるところではあります。

今:それこそ、グレタ・トゥーンベリさんのような、すごく意識が高いZ世代の子がいる一方で、そういうところから距離を置いた世界にいるティーンもまた、真の姿なのかなとは思っていて。いろいろ世界は大変だけど、そういうところで私たちは生きていかなきゃいけないんだよっていう……そこに希望を持ったりはしていないんだけど、かといって絶望しているわけでもない。そういう空気感みたいなものが、この映像世界からすごく伝わってくるように思いました。

マーク・ラファロの説得力のある演技

――そして、今さんのおすすめ、マーク・ラファロがリミテッドシリーズ部門の主演男優賞を受賞した『ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー』。こちらはいかがでしたか?

『ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー』

今:この作品は、監督であるとか、いろいろ技術的なことも含めて語りがいのある、非常に完成度の高い作品だと思うんですけど、私は弟が重度の知的障害者なので、すごく個人的な視点で観てしまったところがありました。マーク・ラファロが演じ分ける双子の弟の方、ドミニクの自分の追い込み方っていうのが、ホントに泣けてしょうがなかったんですよね。親ではなく兄弟だからこその責任感みたいなものが、本当につらくて。それはひとえにマーク・ラファロの説得力のある演技によるものだったので、主演男優賞はマーク・ラファロに獲ってほしいなと心から思っていたので、本当に嬉しかったですね。

キャサリン:私はちょうど観始めたところなんですけど、映画『ブルーバレンタイン』の監督が撮ったドラマだと思って観ているからっていうのもあると思うんですけど、なかなかビンジウォッチできない重さみたいなものがあって。だから、ちょっと休み休み観ているんですけど、そうやってゆっくり観られるところが、逆にいいかなと思いました。すごく切実な話なので、誰にでもおすすめできるドラマではないのかもしれないけど、そういう話をやらせると、やっぱりこの監督はすごいなっていう。

『ある家族の肖像/アイ・ノウ・ディス・マッチ・イズ・トゥルー』

――今、話にも出てきたように、本作は『ブルーバレンタイン』、『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』などの映画で知られるデレク・シアンフランス監督が初めて手掛けたドラマシリーズなわけですが、これはもう6時間半の映画なんだなって個人的には思って……こういうリミテッドシリーズだと、映画監督が参入しやすいところもあるのかなと。

今:挑戦しやすいっていうのは、きっとありますよね。実際、映画よりもテレビのほうが楽しいっていうクリエイターも、結構出てきているみたいですし。さっき言った『Devs』を作ったアレックス・ガーランドも、そういうことを言っていました。

田近:映画のクリエイターたちがシリーズにきた場合、やはりキャラクターを長いスパンで描けるのがすごくいいって言いますよね。やはり2時間じゃ収まり切らないというか、そこをじっくり描けるのがいいっていう。とりわけリミテッドシリーズは、そういう傾向があるというか、今回リミテッドシリーズの作品賞にノミネートされていた『アンビリーバブル たった1つの真実』(Netflix)とかもそうですけど、映画よりも尺が長いからこそ、ひとつの問題をじっくり深く描くことができる長所があります。それは終わりが決まっているリミテッドシリーズのすごく良いところだなと思います。

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