異世界転生ものの変化球!? 遊川和彦脚本『35歳の少女』は『家政婦のミタ』を超えるか?

『35歳の少女』は『家政婦のミタ』を超える?

 もしかして、本作はライトノベルの世界では鉄板の「異世界転生もの」に近いのかもしれない。望美の時が止まった1995年は携帯電話もまだそれほど普及せず、Windows 95が発売されたぐらい。スマートフォンもWi-Fiもない。ISDN接続によってパソコンの画面ではホームページが1秒ごとに上から少しずつ表示されていたぐらいで、情報のスピードは現在とは比較にならない。その意味では「のどか」だった四半世紀前から“転生”してきた望美には、2020年の日本はほとんどパラレルワールドに見えるのではないか。そんなギャップに驚く展開も楽しめそうだ。『テセウスの船』(TBS系)では主人公が平成元年にタイムスリップし、黒の家庭用電話機やワープロなどアナログなツールを目にしていたが、今回はその逆パターンになる。異世界に転生したヒロインがその世界に対応して、恋をし、夢を叶えていくのなら、“アガる”展開になるだろう。

 最後に、改めて考えてみたい。私たちはもう「不幸なおとぎ話」は観たくないのだろうか? 現在、視聴率を稼いでいるのは明るめのラブコメディであることからして、暗い内容のドラマを敬遠する傾向は確実にあるのだが、簡単にイエスとも言えない。あの『半沢直樹』(TBS系)に並ぶヒット作、最高視聴率40.0%を記録した『家政婦のミタ』が放送されたのは、2011年の10月からだった。ヒットした理由は、主演・松嶋菜々子の徹底した無表情ぶりが面白かったり、「それは業務命令でしょうか」などの名セリフがあったりし、ネット上でもネタとして盛り上がったからだと分析されたが、筆者が作り手のひとりにインタビューしたとき、ベテランのテレビ人であるその人は、ネタドラマで40%は取ることができず、それだけ数字が出るということは、本気でミタに共感した人がたくさんいるということ、そして世の中にはミタのようにさびしい境遇の人がいるのだと語った。

 9.11、東日本大震災の直後、直接、被災した人はもちろん、日本中の人が同胞を失った悲しみを抱えていた。そこで、親や夫や子を亡くしたミタの悲しみが私たちの心を震わせたのではないか。そして、そんな共感のプロセスは、悲しみを乗り越えるのに必要なことなのかもしれない。

 折しも、新型コロナウイルス感染拡大という「不幸」があり、私たちは「時を戻そう」とばかりに、1年前の世界に戻りたいと思っているタイミング。自分の意志と関係なく、不条理にも人生の一部を失った望美は、多くの人の共感を呼ぶかもしれない。遊川作品のもつストーリー性の強さに期待したい。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
『35歳の少女』
日本テレビ系にて、10月10日(土)放送スタート 毎週土曜22:00〜22:54放送
出演:柴咲コウ、坂口健太郎、橋本愛、田中哲司、富田靖子、竜星涼、鈴木保奈美、細田善彦、大友花恋
脚本:遊川和彦
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:大平太、諸田景子
演出:猪股隆一ほか
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/shojo35/
公式Twitter:@shojo35

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマシーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる