草なぎ剛「本当にいい作品にめぐりあえた」 内田英治監督と語り合う『ミッドナイトスワン』の挑戦

内田「“日本映画”と思って作ってはいない」

ーー草なぎさんはこれまでも子役との共演が多かったですよね。一緒にやっていて何か感じることはありますか?

草なぎ:みんな純粋というか、演技をしていないことが一番素晴らしいことのような気がします。一果もそうでしたけど、やっぱり子役の子に対して、大人が変にテクニカルなことを求めてもしょうがないんじゃないかなって。だから僕も樹咲ちゃんにゼロに戻してもらったというか。それってすごいことですよね。だって、演技を知らなくて、初めて演技をしているわけで、ただ自分の中から出てくるもので動いている。その素晴らしいところを、内田監督がまた絶妙に切り取るんですよ。一果と凪沙の関係もすごく好きですし、一果とりん(上野鈴華)、2人の少女の関係にもドキッとさせられる。本当にいい作品にめぐりあえたなと思います。

ーートランスジェンダーが主人公の映画ということで、制作にあたっては難しさもあったのではないでしょうか?

内田:この映画が生まれた背景として、もともと書いていたけどなかなかうまくいかなかった、バレリーナの話とトランスジェンダーの話、その2つの脚本をミックスしたというのがあるんです。バレリーナの話をミックスしたのには、トランスジェンダーの映画として、あまり社会的な重い映画だと捉えられたくないという思いもあって。なので、めちゃくちゃ気を遣っているというわけではないのですが、やっぱり間違った描写はとても問題だと思うので、30人くらいのトランスジェンダーの方に取材して、実際に話を聞きました。一言で“トランスジェンダー”と言っても、みなさん違って、それぞれの生き方があるんです。凪沙のようなお店で働くダンサーもいれば、政治家もいるし、普通に働いている人もいる。なので、あまり偏った視点にならないように、リアルな話を書くことは意識しました。

草なぎ:僕も事前に監督から資料をいただいたり、実際にトランスジェンダーの方と話をする機会を設けていただいたりしました。その中で掴めたこともたくさんありましたね。でも、トランスジェンダーの方だからと言って何か特別なことがあるわけもないので、それこそ監督がおっしゃるように、いろんな方がいていいんだなと思いました。そう考えることによって、仕草を何かどうこうするみたいにしなくていいなと思えてきたんです。むしろ僕自身に近い印象も受けたので、だったら本当に余計なことはせず、なるべく僕自身のままでいる感覚でやろうと思いました。

ーー内田監督の作品はこれまでも海外で評価をされたり、それこそ『全裸監督』などは海外を意識されていることを公言されていましたが(参考:『全裸監督』内田英治監督は“海外”を意識 配信プラットフォームに見るローカル言語ドラマの力)、今回の『ミッドナイトスワン』もそういう意識はありましたか?

内田:むしろ“日本映画”と思って作ってはいないんです。それは毎回そうなんですが、自分の作品は日本映画だとは1ミリも思わずに、むしろ僕としては、韓国映画や台湾映画に近い感じで現場に臨んでいます。あえて役者の方々にそういうことを言ったりはしませんが、他のスタッフたちはいつもやってくれている方たちなので、その辺りの意識は共有されていると思います。だから今回の現場でも、草なぎさんをいわゆる日本の中でのパブリックイメージとしての“草なぎ剛”としては見ずに、もっとワールドワイドな、世界の“草なぎ剛”として見ていました。

ーー草なぎさんは内田監督のそういう意識や視点を感じていましたか?

草なぎ:それは感じましたね。もちろん監督からそういう説明はないんですけど、やっぱり日本人離れというか、日本で撮ってはいるものの、アジアのどこか行ったことのないような空気感を感じました。セットとかからもそういう空気が出ているのか、不思議な感覚があったんですよね。だから、その中でやるとより役にも入っていけるし、物語も深く進行していく感じがありました。トランスジェンダーという題材自体も、海外と比べると日本ではまだまだ遅れてるよねという話もしていたので、それがこうやってちゃんと映画として世に出せることも素敵だなと。いろんな国の人が観ても、何か感じとってくれる部分がある作品になっていると思います。

■公開情報
『ミッドナイトスワン』
TOHOシネマズ 日比谷ほかにて公開中
出演:草なぎ剛、服部樹咲(新人)、田中俊介、吉村界人、真田怜臣、上野鈴華、佐藤江梨、平山祐介、根岸季衣、水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖
監督・脚本:内田英治
配給:キノフィルムズ
(c)2020 MidnightSwan Film Partners
公式サイト:midnightswan-movie.com

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