森山直太朗と中村蒼の対照的な表情 『エール』が突きつける残酷なまでの戦時中の空気

『エール』藤堂と鉄男の対照的な表情

 吟の夫で陸軍の馬政課に所属している軍人・智彦(奥野瑛太)から、映画『暁に祈る』の主題歌制作を依頼された裕一(窪田正孝)と鉄男(中村蒼)。軍馬への関心を高めることも国民への戦意高揚の一つだと、愛馬精神に理解を示すことができない鉄男は作詞に苦しんでいた。『エール』(NHK総合)第74話では、軍から最後のチャンスをもらった鉄男にとって何かのきっかけになればと、裕一が彼を同郷の福島に連れて行く。

 紫陽花が鮮やかに咲く季節の福島。2人を今か今かと心待ちにしていたのは、裕一の母・まさ(菊池桃子)、弟の浩二(佐久本宝)、そして妻の昌子(堀内敬子)と5歳になる息子・憲太(宇佐見謙仁)を連れた恩師・藤堂(森山直太朗)だった。そこには父の体を労わりちょくちょく実家に帰省していたという久志(山崎育三郎)の姿も。図らずして福島三羽ガラスが集結。「今夜は宴会ね!」と嬉しそうに声を張るまさに、生前の三郎(唐沢寿明)の姿が重なる。仏壇の三郎が微笑むのは、久志が土産に持ってきた好物のどら焼きに……ではなく、裕一が初めて盟友を招き賑わう喜多一にだろう。

 藤堂は裕一、鉄男、久志にとって音楽の道を教えてくれたかけがえのない存在。裕一は得意なものとして音楽を見つけてもらい、鉄男は詩を諦めるなと、久志は歌う楽しさをそれぞれ教えてもらった。そんな藤堂の出征という衝撃的な報せ。元軍人の父・晴吉(遠藤たつお)を持つ藤堂は、若い頃に反発し教師の道を志したが、親になることで父の心情を理解し予備役将校へ。「お国のために」ーーそう言って藤堂は立派に役目を果たしてくると、鉄男に告げる。

 第74話には年をとってガタが来ている父を心配する久志に、鉄男が「家族がいっと心配事が増えるもんなんだな」とつぶやくシーンがある。それに何も言わず、その場をやり過ごす裕一と久志。魚屋「魚治」の長男として生まれた鉄男の一家は、あちこちから借金を重ね夜逃げしていたことまでは描かれているが、その後新聞記者として働く鉄男が家族とどのように離れ離れになったのかは深く語られていない。2人の反応から察するに、裕一も久志もそのことには触れずにここまできたのだろう。

 藤堂は『暁に祈る』の主題歌を戦地に向かう自分を思って書いてほしいと、鉄男に持ちかける。鉄男が作詞した「福島行進曲」が好きだという藤堂。「福島行進曲」は希穂子(入山法子)への思いを綴った曲。誰か1人に向けたメッセージは不思議と多くの人の心に刺さるのだと藤堂は伝える。今度はその大切な人を藤堂に。そしてその思いはやがて大衆の心の支えとなる。

 晴れやかな表情の藤堂と暗く沈む鉄男。それぞれの立場を考えると当時の忠君愛国のムードが残酷なまでに伝わってくる。藤堂も認める繊細な心を持つ鉄男は、どんな詩を書き上げるのか。その未来は、第1話で描かれた鉄男が藤堂の墓前に手を合わせる場面へとつながっていく。

■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜11月28日(土)予定(全120回)
※9月14日(月)より放送再開
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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