阿部「撮影が終わったとき、すごく喪失感に近いものを覚えた」

ーー1年を通して撮影が行われたとはいえ、季節ごとに間は空いているわけですよね。間を空けてまた役に戻ることは難しくはなかったですか？

三吉：全部最初から時系列で撮っていたので、その違和感はなかったですね。撮影していない間も、純ちゃんや監督と連絡を取り合ったりご飯に行ったりとプライベートで会う時間もあったので、日数が空いても役が自分から離れていく感覚はそんなになかったです。

阿部：私は他の作品の撮影をしているときも、もちろん目の前の作品に集中はするんですけど、「彩乃だったらどうするだろう」ということが、常に頭のどこかにあったような気がします。だから、『Daughters』の撮影が終わったときに、すごく喪失感に近いものを覚えた記憶があります。

ーー喪失感というのは具体的に言うと？

阿部：妊娠・出産を実際に体験したことがないので難しいなと思いつつ、撮影期間中は、彩乃だったらどう行動するかを考えたり、自分の身体だけど自分だけの身体じゃないなと思いながら役を演じていたので、撮影が終わったあとは、「あ、いないんだ」というような、自分の感覚的な部分で、そういう喪失感がありました。

ーー彩乃の妊娠・出産を通して、小春にも変化が訪れていきます。三吉さんはこの作品を通して、生き方や人生について改めて考え直すことはありましたか？

三吉：自分の人生はもちろん、パーソナリティやセクシャリティ、多様化などについても、よりフラットに考えられるようになった気がします。この作品を通して、自分の中でも女性だから男性だからということよりかは、自分の人生としてどういう選択をしていくかが重要なのかなと。小春は周りの人に相談したり、答えが分からなくなったり迷ったりもしながら、自分で決断していく。彼女にはそういう強さも感じました。小春と彩乃、それぞれで異なる価値観を持っていて、一方で共通する価値観も持っている。そういうものをひとつの作品の中で間近で感じられたのは私にとってもすごく大きかったです。女性であることの嬉しさや楽しさなど、ポジティブに受け止めることができました。女性に生まれてきた自分にも、これからまた楽しいことがいっぱいあるんだろうなというワクワク感がすごく芽生えましたね。

ーー阿部さんはいかがですか？

阿部：彩乃はプレスでバリバリ働きながら、社会のことも勉強して、自分でその地位を上げていった女性だと思うんです。とても強いしタフですけど、出産というライフステージに立つことによって、社会の中でなかなか寛容じゃない部分にぶち当たってしまったり、いまいる場所から外れることになってしまう。私は役としてそういうことを擬似体験して、それってすごく悔しいなと思いました。でも、たぶんそういうことは世の中では実際にたくさんあることで、どんな選択をしても社会の中で寛容的に生きるにはどうしたらいいんだろうと考えました。それは女性だけの問題ではないので、みんなで分かり合える社会を作ることできればいいなと心から思いました。また、彩乃にとっての小春のような、何でも話せるけど、話さなくても分かり合えるような関係性でいられる友達は、人生にとってものすごく重要な存在なんだと感じて。彩乃は何でも1人で決められるタイプですけど、出産に関しては唯一、小春がいたから決断ができた部分もあったのかなと。もちろん女性の物語ではあるんですけど、そういう2人の絆、友達同士の信頼関係を描いた物語でもあると思います。私もそういう関係をもっと大事にしていきたいなと思いました。

■公開情報
『Daughters』
ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中
脚本・監督：津田肇
出演：三吉彩花、阿部純子、黒谷友香、大方斐紗子、鶴見辰吾、大塚寧々
プロデューサー：伊藤主税
エグゼクティブプロデューサー：佐藤崇弘
ラインプロデューサー：角田道明
企画：CHAMELEONS INC.
制作プロダクション：and pictures
制作協力：Lat-Lon
配給：イオンエンターテイメント・Atemo
製作：CHAMELEONS INC.／and pictures／キングレコード／ワンモア／沖潮開発
(c)「Daughters」製作委員会
公式サイト：https://daughters.tokyo
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