『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は何がすごいのか? 映画の醍醐味がここにある

 核戦争で荒廃した近未来。やさぐれ風来坊のマックス(トム・ハーディ)は、暴君イモータン・ジョー(ヒュー・キース・バーン)の軍団にトッ捕まってしまう。このまま死ぬのかと思いきや、ジョーに反旗を翻した戦士フュリオサ(シャーリーズ・セロン)と協力して安住の地を求めて脱出することに。当然ジョーが黙っているわけもなく、そしてあとは……ひたすら追撃、追撃、追撃。果たして対決の行方は?

 めでたく地上波放送が決定した『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)だが、シンプルな話である。あまりにシンプルすぎて、「普通では?」と思うかもしれない。しかし本作は間違いなく2010年代を代表するアクション映画である。とにかくすごいし、オススメしたい。しかしすごいポイントが大量にあり、1つ1つ精査していけばキリがないし、人によって全然違うだろう。語り出すとキリがなく、あれもこれもとなってしまう。そんなブルーハーツ状態になっては元も子もないので、とりあえず今回の記事では私が考える「『マッドマックス 怒りのデス・ロード』って、結局は何がすごいのよ?」という質問への回答を書きたい。それが少しでも本作への興味に繋がれば幸いだ。

 「この映画の何がそんなにすごいのか?」もしそう聞こえたら、私は「潔さ」だと答えるだろう。では「具体的にどこが潔いのか?」と聞かれたら……これも大量にあるので、今回は特に好きな2点に絞って書いていきたい。

 まず1点目は脚本だ。逃げながら戦う、話をこれだけに絞る潔さである。さらに世界観や固有名詞、設定の説明など、いくらでも語れるけれど、あえて語っていない部分が非常に多いのもすごい。たとえばイモータン・ジョーの軍団「ウォーボーイズ」には、味方のテンションを上げるために爆音で火を噴くギターを弾くドゥーフ・ウォリアーというキャラクターがいる。彼について、「味方を鼓舞するためギターを弾きまくっている」という明確な説明はない。もちろん彼の周囲には太鼓を叩いている人たちもいるので、観客は何となく「盛り上げ要員なんだな」と理解できるが、それでも普通の映画なら、ひと言くらい彼の役割を説明するようなセリフ、たとえば出撃前に「景気づけによろしく!」みたいなセリフが入っているだろう。そっちの方が親切かもしれないが、そうしないのが『デス・ロード』なのだ。だってなくても伝わるだろうし、ない方が初めて観た時にビックリするし、ない方が「ドゥーフウォリアーがギターを弾きまくるのはウォーボーイズにとって当たり前、つまり日常なんだな」感が強まるし、何よりそんな台詞はない方がカッコいいからだ。他にも「なぜ死ぬ前に口の周りに銀のスプレーを?」とか、いきなり観ると混乱しかねない箇所が多々あるが、それらにあえて説明を入れない。こうした「潔さ」が、私の中の「第1潔いポイント」である。

 そして2点目は、ちょっと変わった表現になるが、『デス・ロード』が『マッドマックス』から逃げていないことだ。むしろ逃げなかったうえに、すでに金字塔的に存在していた『マッドマックス』の概念を更新してしまったのだ。『マッドマックス2』(1981年)は、名作の宿命として、カラッカラになるまで絞られた。核戦争で荒廃した未来を舞台に、「ヒャッハー!」と叫びながら襲ってくるモヒカンたち。世界中でこの世界観は流用されまくったし、今なお「ポスト・アポカリプス」=「終末世界モノ」の定型になっている。ありふれたものであるし、あまりにもメジャーになり過ぎて、パロディの対象になるくらいだ。言い訳できないくらい『マッドマックス2』な『北斗の拳』から、良質なギャグ漫画系スピンオフが出ていることからも分かるだろう。極論になるが、「『マッドマックス』的なもの」はギャグや郷愁の対象であって、「観たことがない新しいもの」ではなくなっていた(『デス・ロード』の公開までは)。しかし、本作はセルフパロディや郷愁を誘う作品ではなく、あくまで最新のアクション映画として勝負している。この潔さも非常に素晴らしい。モヒカンとレザーでヒャッハーしていた人たちは、半裸に白塗り、さらに全身の皮膚に傷で模様を描いたりと、狂気の度合いがパワーアップした。当然アクションも大変なことになっている。全編に渡って爆走するカーチェイスはもちろん、しなるポールを使ったアクロバット、銃撃戦、そしてダイナミックすぎる爆発。アクション映画と聞いて思いつく要素が極めて高いレベルで揃っている。位置関係で混乱してしまいそうな状況を、すんなり見せてしまう撮影と編集も凄まじい。「『マッドマックス』シリーズの続編」だということを無視して、単体のアクション映画として捉えても、本作は突出したものがある。ギャグにも逃げず、真正面から、最新のアクション映画として勝負する。これが第2潔いポイントだ。