地方テレビ局がジャーナリズムを体現? 映画『はりぼて』が描いた“日本社会の縮図”
群がるカラスは誰のことか
この映画の隠れたキーワードは「群がり」だ。映画のメインビジュアルが富山市庁舎に群がるカラスであることは先に紹介したが、映画本編にもカラスのインサートショットがたびたび挿入される。
カラスは、白紙の領収書に群がる政治家のメタファーだろう。しかし、それだけではないかもしれない。ネタ元に群がり、荒らすだけ荒らしていなくなるメディアをも表しているのかもしれない。本編中、裁判所前に多くの報道関係者が陣取っているシーンがある。狭い歩行路を占拠するかのように大勢群がり、脚立を置いてカメラを構えるメディアの姿を、この映画のカメラは道路の逆側から捉えている。この距離感が本作を非凡なものにしている。
富山市の公園緑地課の職員が「カラス居直り禁止」の立て札を立てるシーンも非常に示唆的だ。職員はこの看板を立てる意図をこのように説明する。
「カラス自体は文字を読めないですけど、公園を利用する人がこの看板を見て、カラスを見張ってくれれば、カラスも警戒していなくなる」
誰がカラスを見張るのか。白紙の領収書に群がる政治家というカラスをメディアが見張らねばならない。では数字を取ることしか頭にないメディアというカラスはだれが見張るのか。最終的には有権者という市民が見張るしかない。しかし、我々自身もまた、一時の騒げるネタにSNS上で群がるカラスになってはいないだろうか。「まずはカラスから人間になろう」。私はこの映画を観てそう思ったのだった。
■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。
■公開情報
『はりぼて』
ユーロスペースほか全国順次公開中
監督:五百旗頭幸男、砂沢智史
撮影・編集:西田豊和
プロデューサー:服部寿人
語り:山根基世
声の出演:佐久田脩
テーマ音楽:「はりぼてのテーマ〜愛すべき人間の性〜」(作曲:田渕夏海、音楽:田渕夏海、音楽プロデューサー:矢崎裕行)
配給:彩プロ
2020年/日本/日本語/カラー/ビスタ(1:1.85)/ステレオ/100分
(c)チューリップテレビ