朝ドラ『エール』はどこまで史実が描かれている? 主人公以外のキャラクターを解説

朝ドラ『エール』はどこまで史実?

 コロンブスレコードで裕一と同期の作曲家・木枯正人(野田洋次郎)は「丘を越えて」や「影を慕いて」、そして前述の鉄男のモデルとなった作詞家・野村俊夫と組んだ「湯の町エレジー」などのヒット曲で知られる国民的作曲家・古賀政男がモデルとされる。劇中で裕一と木枯は良きライバルであり盟友だが、実際古関と古賀はさほど懇意ではなく、接点もなかったようだ。また、裕一は木枯の紹介で作詞家・高梨一太郎(演:ノゾエ征爾。高橋掬太郎がモデル)と出会い「船頭可愛いや」を作ったという筋書きになっているが、実際は古関と高橋が懇意で、共に曲のアイデアを求めて取材旅行に出かけるほどの仲だったという。

 『エール』には他にも、古関の恩師で日本に西洋音楽の普及をもたらした山田耕筰をモデルにしたとされる小山田耕三(志村けん)や、日本で初めての国際的オペラ歌手・三浦環をモデルとしたと言われる双浦環(柴咲コウ)など、明治から大正にかけて邦楽の黎明期を彩った錚々たる人物が次々と登場する。劇中で小山田は裕一の才能に嫉妬し、若い芽を摘もうとするが、実際山田耕筰は無名の音楽少年であった古関裕而を文通を介して指導し、作曲家になる道筋をつけてくれた大恩人だ。

 また、ドラマ内で裕一の作曲・高梨の作詞による「船頭可愛いや」は下駄屋の娘・藤丸(井上希美)に歌わせてまったく売れず、歌を気に入った双浦環が志願してカバーし大ヒットしたという話になっているが、古関と高橋が作った「船頭可愛や」は藤丸のモデルとなった音丸が歌ったオリジナル版が大ヒット、その4年後に人気歌手の三浦環がカバーして再びヒットしたというのが史実だ。

 このように、ドラマではエンターテインメントとして起伏に富ませるために、随所に“加工”がなされている。史実との共通点、そして違い、どこをどのように作り手がアレンジしたのかに注目するのも一興だ。

■野田一
ドラマ・映画・昭和カルチャーなどについて書いているライター。朝ドラ最古の記憶は『雲のじゅうたん』。

■放送情報
連続テレビ小説『エール』
2020年3月30日(月)〜9月26日(土)予定
※6月29日より第1回から再放送中
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/

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