『ナイブズ・アウト』は新しい時代の名探偵シリーズに? クラシカルなスタイルを現在のものに更新

 新しく映画化された『オリエント急行殺人事件』(2017年)や、『アガサ・クリスティー ねじれた家』(2019年)、『ナイル殺人事件』(2020年公開予定)と、近年アガサ・クリスティ原作のミステリー小説の映画化が続き話題となっている。

 エドガー・アラン・ポーや、コナン・ドイルらによって生み出された、名探偵が登場する小説をより現代的な感覚で引き継ぎ、大胆な展開や斬新なトリックが楽しめる数々のベストセラー作品によって、ミステリージャンルの普及や確立に貢献したアガサ・クリスティ。その著作、名探偵エルキュール・ポワロシリーズに代表される、個性的な容疑者たちの前で探偵が華麗に謎解きをしていく様式美や、親しみの持てるミス・マープルのような名探偵キャラクターは、日本でいまだに根強い人気を持ち、いわゆる“2時間ドラマ”や、漫画作品などでも、その様式が楽しまれている。

 新たにオリジナルストーリーで綴られる本作『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』は、いまとなっては完全にクラシカルになった、このようなスタイルを極力そのままに、登場する要素をさらに現在のものに更新することによって、いままでにない境地に到達した映画である。それはあたかも、現代の世にアガサ・クリスティが生き続けていて、世界の情勢を敏感に受けとり作品のなかに織り込んでいるような印象を与えられるのである。この試みは観客や批評家に支持され、続編製作が決定したニュースも報じられた。ここでは、そんな成功作となった、Blu-ray&DVDが発売中の『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』が真に達成したものを、ミステリーのネタバレを避けつつ考察していきたい。

 本作の監督はライアン・ジョンソン。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』の監督に抜擢されたことで話題を集め、反逆的ともいえる意外な展開を連続させることで、シリーズになかったテイストを盛り込んで批評家からは一定の評価を受けたものの、ファンの間で賛否の渦を巻き起こし、かなり辛辣な意見をも浴びた人物だ。

 しかし本作では、その挑戦的な作風がミステリー演出のなかで功を奏するとともに、何よりも自身一人で書いた脚本が、アガサ・クリスティ原作かと思うほどに、完成度の高い複雑かつ緻密なものに出来上がっているのに驚かされる。タイムトラベルを題材としたSF映画『LOOPER/ルーパー』の監督、脚本も担当しているように、彼の脚本能力の高さというのは、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』だけを鑑賞しただけでは分からないところがある。

 そして、ライアン・ジョンソンが創造した本作の名探偵こそが重要だ。演じたのは、『007』でジェームズ・ボンド役を長く務めている、ダニエル・クレイグ。いかにもフランス系だと思わせる、ブノワ・ブランという姓名で、話す言葉のイントネーションはアメリカの南部なまりであるという、特徴的なキャラクターだ。探偵らしく落ち着き払い、ダンディーで紳士的な雰囲気を振りまきながら、その瞳には熱い正義感を秘めている。