『腐女子、うっかりゲイに告る。』金子大地演じる主人公が突きつける、性的マイノリティの現実

『腐女子~』から考えるアウティングの問題

 誰にでも突然、過酷な現実を突きつけられるときがある。感染症の広がりによって仕事を失ったり、災害で家を失ったり、家族が病気になったり命を落としたり、不倫など他人には隠していた秘密がバレてしまったり、失言してSNSでバッシングされたり……。人生の暗転はいくらでも起こりうる。多くの人がそう感じている現在、2019年制作のドラマ『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK)が再放送中だ。浅原ナオトの小説を基に、BL(ボーイズラフ)をファンタジーとして楽しむ腐女子×同性としか性的関係を持てないことに苦しむゲイという「混ぜたら危険!」な組み合わせをあえて出会わせ、両者のリアルを描き出しながら相互理解の物語に仕上げた秀作だ。7月11日放送の第5話では、性的マイノリティへのアウティング(暴露)という“暗転”が描かれる。

 ゲイの少年・安藤純(金子大地)と腐女子の三浦紗枝(藤野涼子)は高校のクラスメイト。ある日、純は紗枝がBLコミックを買っているところを目撃してしまい、それをきっかけに接近して彼氏彼女の関係に。セックスもしようとしたが、純は女性の体に反応できなかった。第4話では温泉デートに出かけた純と紗枝が仲直りするかと思いきや、そこで純は本当の恋人である既婚者男性・マコト(谷原章介)と遭遇。そのときネットで交流してきたファーレンハイト(声・小野賢章)から自殺をほのめかすメッセージが来て動揺した純はマコトにすがってキスをし、それを紗枝に見られてしまうという修羅場で終わった。そして、第5話では、ついに紗枝にすべてを告白した純が、クラスメイトの小野(内藤秀一郎)に「きもいホモ野郎」だと言われて、校舎の最上階から飛び降りようとする。

 初放送時も衝撃的だったこの場面。それまで一風変わったボーイミーツガール物語としてドラマを観てきた人も、純とマコトの絡みをBLとして楽しんできた人も、純の苦しみは自殺を図るほど強かったのだとここで思い知る。体育の前に着替えをしていた教室で、小野に「こいつ(純)が気持ち悪くないのかよ」という問いを突きつけられた男子生徒たちは誰も「気持ち悪くない」とは言わない。「もうそういう(差別をする)時代じゃないし」とかばった純の幼なじみ・亮平(小越勇輝)でさえも純と同じゲイとは思われたくない。自分を異分子として排除する空気を感じ取った純は涙を流し、ベランダの手すりに立ち絶望した表情で「もう、疲れた……」とつぶやく。この場面は、現実にも似たような事件が起こっていることを知っていると、よりいっそう胸に迫ってくる。アウティングされたことを苦にしてみずからの命を絶つ人は実在するのだ。

 本作のテーマには、個人を何かの区分でくくって「世界を簡単にしない」ということがあるが、残念ながらマジョリティ(多数派)の論理でのほほんと生きてきた場合は、そうでない人をいったんカテゴライズしないと、きちんと理解できない。ジェンダー自認にはいろんなバラエティがあり、男を愛する男がいる、女を愛する女もいる。男として生まれたが自分は女だと感じる人もいるし、その逆も……。と、そうやってひとつひとつわかりやすく区分し、その現実を認識してから初めて「みんな違って、みんないい」という考えに至るのだ。アウティングという暴露行動は、暴露者がこの過程を踏めなかったがゆえに「世界は簡単ではなかったのだ」というショックを受けてしまい、その反動として起こるのかもしれない。

 紗枝のような腐女子の場合、男性同士の恋愛やゲイ文化に興味があり知識もあるけれど、それはあくまで自分を異性愛という多数派の安全圏に置いてのエンタメ消費行動であり、自分にとってリアルでないからこそ楽しめるファンタジーなのだ(中には自分もLGBTQでありつつBLを楽しむ人いる)。だから、紗枝は自分にとっては妄想だったはずの同性愛(マコト×純)がリアルワールドに出現し、女性として男性に愛されたいという自分の願望を打ち砕いたとき、「どういうこと?」と驚き、怒りを表明した。

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