『腐女子、うっかりゲイに告る。』金子大地演じる主人公が突きつける、性的マイノリティの現実

『腐女子~』から考えるアウティングの問題

 逆に言えば、ゲイの人にとって、自分たちに興味を抱く腐女子は近いようで最も危険な存在なのかもしれない。第4話で、紗枝の先輩腐女子は、純がゲイとは知らないまま自分の彼氏とハグしあうように命じ、その絡みを写真に撮って喜んでいた。さすがにそんな無神経なことをする人はごく稀だが、男性同士がハグしているのを見て内心「キャー」と萌えるぐらいは、腐女子なら誰しもやっていることだろう。

 それゆえ、リアルゲイの人に「好奇心で近づくな」「僕たちを消費するな。迷惑だ」と言われたら“終了”という前提はありつつ、腐女子がそうでない人よりも彼らに対してできることは何かあるのではないか。このドラマが描くテーマのひとつはここにある。純は紗枝が腐女子だから話をするようになったし、告白したときも「(同性愛に興味のある)この子なら、好きになれるかも」と思って受け入れた。そんなふうにまずは接点があるということ。そして、紗枝は純がゲイだと知って傷つくものの、彼がクラスの男子から避けられるようになると「(女の)友達には安藤くんが苦しんでいたことちゃんと説明した。私はほら、BLが好きだから、ふたりの相性は完璧!」と言って励ますのだ。そんなふうに、少なくとも、相手のセクシャリティを比較的すんなりと理解して味方になることはできるのではないか。

 “三浦さん”こと紗枝は、ある意味、最強の腐女子である。BLが好きなことを周囲に隠してはいるけれど、特にコミュ障なところは見当たらず、自分から果敢に男子に告白するし、彼氏の前でもBLの良さを語りまくる。さらに、クライマックスの第6話では全校生徒の前で「私はBLが大好きでーす」と腐っていることをカミングアウト。こんな無敵の腐女子はなかなかいない。一方、純の母親(安藤玉恵)は息子がゲイと知ってもすぐには受け入れられず、LGBTQについての知識があるかないかが、ここで大きな差になってくる。もし、母親が腐女子だったら、息子に「(ゲイは)治らないの?」などと聞いて傷つけることもなかったはずだ。

 アウティングについては、現在、法整備が始まったところで、東京都国立市や三重県では他者によるアウティングやカミングアウトの強要を禁止する条例が制定された。性的マイノリティの人にとって必要と思われるのは、こうした施策と理解の広がり、そして、何よりも実際に差別的な行動がなくなること。楽観論かもしれないが、腐女子やBL文化が差別を助長したり差別をないことにしたりするのではなく、ドラマで純と紗枝の間に奇跡が起こったように、マイノリティの生きやすさに寄与できることを願ってやまない。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
よるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』
NHK総合にて再放送(29分×8回、2回)
6月13日(土)〜8月1日(土) 毎週土曜23:30〜
6月20日(金)〜8月8日(金)毎週金曜深夜1:05〜
原作:浅原ナオト『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』
脚本:三浦直之
出演:金子大地、藤野涼子、小越勇輝、安藤玉恵、谷原章介ほか
演出:盆子原誠、大嶋慧介、上田明子、野田雄介
プロデューサー:尾崎裕和
制作統括:篠原圭、清水拓哉
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/fujoshi/

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