ジブリ名作のリバイバル上映はなぜ成功した? コロナ影響下の映画館で再確認できたコンテンツの魅力

ジブリ作品リバイバル上映はなぜ成功した?

映画館の有限性がジブリ映画の本当の魅力をあぶり出す

『風の谷のナウシカ』(c)1984 Studio Ghibli・H

 さて、そんなテレビ放送で見慣れたスタジオジブリの作品群を改めて映画館で観る醍醐味とはなんだろうか。今回のリバイバル上映につけられたキャッチコピーは「一生に一度は映画館でジブリを」。ジブリを映画館で観るのは特別なものだと強調している。

 映画館の特別性とはなんだろう。筆者は以前のコラムで映画館の豊さとは、接続過剰な日常を切断してくれる有限性にあると書いた(参照:コロナ禍の今、改めて考える“映画館で映画を観る”意義 前代未聞の休館を経験して)。人は接続過剰な状態になると欠如がなくなり、不安が増し、欲望を閉塞させてしまうので、機能限定的な状態、つまり有限の状況を定期的に作ることが現代人には大事だ、という議論から映画館の価値を説こうと試みた。

 有限的でない環境で多くの人が視聴したことのあるジブリ作品は、映画館の有限性の豊かさを確認する良い機会になる。筆者も『風の谷のナウシカ』を観てきた。本作のみ今回の4作品のなかでスクリーン体験がなかったからだ。もちろんテレビ放送、DVDでの視聴も含めて何度も観ている作品である。しかし今回、改めて映画館で観て、とんでもない傑作だと感じてしまった。他に何の邪魔も入らない環境で本作を視聴してみると、緻密に練り上げられた作品世界への没入感がまるで異なる。冒頭の腐海の背景もこれまで以上に妖しく、美しく感じられ探究心を刺激する。ナウシカがなぜ腐海の森探検を趣味にしているのか今までで一番実感として理解できた。

 なにより、スクリーンで映し出された空が広い。空が広いから宮崎映画最大のカタルシス、飛翔シーンの爽快感はテレビとは比べものにならないものだった。宮崎アニメの本当の魅力を発揮できるのはやはりスクリーンなのだと思い知らされた。

馴染みある作品だからこそ映画館の純粋な価値が測れる

 コロナ禍でオンライン配信サービスがますます伸張している。劇場公開を取りやめ、オンライン配信に切り替えた作品も登場している。映画館はこれからも存続できるのかと考える人もいるかもしれない。

 こうした時期に、日本国民に広く馴染みのあるスタジオジブリの映画が映画館で上映された意義は大きい。馴染みある作品をスクリーンで観直すからこそ、映画館の純粋な価値に測りやすいからだ。ただ、最新映画がいち早く観られるのが映画館の強みではなく、テレビやネット配信とは異なる、有限性の魅力がいかにコンテンツを輝かせるのか、ジブリのリバイバルはそれを知ってもらう良い機会なのだと思う。

 是非、映画館の有限性の豊かさをこの機会に味わってみてほしい。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■公開情報
『風の谷のナウシカ』
公開中
原作・脚本・監督:宮崎駿
プロデューサー:高畑勲
音楽:久石譲
声の出演:島本須美、納谷悟朗、松田洋治、永井一郎、榊原良子、家弓家

制作:トップクラフト
(c)1984 Studio Ghibli・H

『もののけ姫』
公開中
原作・脚本・監督:宮崎駿
プロデューサー:鈴木敏夫
音楽:久石譲
主題歌:米良美一
声の出演:松田洋治、石田ゆり子、田中裕子、小林薫、西村雅彦、上條恒彦、美輪明宏、森 光子、森繁久彌
(c)1997 Studio Ghibli・ND

『千と千尋の神隠し』
公開中
原作・脚本・監督:宮崎駿
プロデューサー:鈴木敏夫
音楽:久石譲
主題歌:木村弓
声の出演:柊瑠美、入野自由、夏木マリ、内藤剛志、沢口靖子、上條恒彦、小野武彦、菅原文太
(c)2001 Studio Ghibli・NDDTM

『ゲド戦記』
公開中
原作:アーシュラ・K・ル=グウィン
原案:宮崎駿
脚本:宮崎吾朗、丹羽圭子
監督:宮崎吾朗
プロデューサー:鈴木敏夫
音楽:寺嶋民哉
主題歌:手嶌葵
声の出演:岡田准一、手嶌 葵、田中裕子、香川照之、風吹ジュン、内藤剛志、倍賞美津子、夏川結衣、小林 薫、菅原文太
(c)2006 Studio Ghibli・NDHDMT

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