アダム・サンドラーはなぜ再び成功を収めることができたのか? Netflixとのコラボから紐解く
しかし、Netflixとの出会いが、そんなサンドラーの突破口を開くことになる。ここで、2020年1月に発表された、Netflixメディアセンターによるネット記事の一文を紹介したい。
「サンドラ―が、さらなる笑いの旋風を巻き起こす」
アダム・サンドラーは、Netflix映画『マーダー・ミステリー』で人気を博したばかりだが、Netflixは、そのサンドラーとハッピー・マディソン・プロダクションによる4本の製作映画を新たに配信するべく、契約の延長を決定した。サンドラ―はNetflixの視聴者に愛されていて、『リディキュラス・シックス』の配信が開始された2015年から現在まで、サンドラー作品の総再生時間は20億時間にもなる。
この文章や、2020年以降も4本もの新作を契約したという事実から、サンドラーのNetflixでの成功ぶりがうかがえる。定額制のNetflixでは、再生回数や再生時間によってヒットが判断されるが、そのなかでサンドラーは堂々と勝利を勝ち取ったのだ。しかし、なぜサンドラーの人気がここで盛り返したのだろうか。
その大きな理由に、定額制サービスによる配信という形態が、コメディー作品と相性が良かったという点が挙げられるだろう。家でリラックスしているとき、「ちょっと軽い映画でも観てリフレッシュしたい」と思うことはないだろうか。そんな気分で軽く選択できるものとして、アダム・サンドラー作品があった。
『マーダー・ミステリー』は、日本の2時間ドラマに酷似した、コメディ風の旅情サスペンスで、はっきり言うと“たわいもない”内容の映画だ。しかし、家でリラックスするのには、このくらいの気軽さが好まれたのだろう。映画館にわざわざ行ってまで観たいかというと疑問があるが、日本の視聴者だけでなく世界的にも、この手の作品を、家にいるとみんなが“なんとなく観てしまう”のだ。
くわえて、かつて『フレンズ』などの大ヒットドラマで絶大な人気を誇ったジェニファー・アニストンと共演したというのも大きかった。これは、サンドラーのコメディーを観てきた40代以上の視聴者の嗜好を狙った、意図的なキャスティングであろう。かくしてサンドラーは、遊ぶために家から出なくなったファンを再び自分のものにすることに成功したのである。
だが、それだけではなかった。この機に乗じて、サンドラーは挑戦的な作品における演技派俳優としての方向に、本格的に乗り出してもいる。その一つが、『マリッジ・ストーリー』(2019年)のノア・バームバック監督のファミリー映画『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』(2017年)である。
この作品では、ダスティン・ホフマンが演じる偏屈なアーティストの老人に翻弄される息子や娘たち、周囲の人々の心情を、ニューヨークを舞台に描き出している。サンドラーとベン・スティラーが兄弟役なので、両者のコメディー風演技は大きな見どころとなってはいるが、その根底には登場人物たちの鬱屈したコンプレックスや過去のトラウマが存在しており、単純に笑えるようなものにはなっていない。ノア・バームバック作品は、家族を題材に心をえぐるようなテーマを設定し、観客の気持ちを深いところで揺さぶってくる。
そしてもう一つ、俳優としての新しい挑戦が際立ったのが『アンカット・ダイヤモンド』(2019年)だった。監督のサフディ兄弟は、気鋭の犯罪映画で注目を浴びるクリエイターだ。ここでサンドラーは、これまでのようなナイスガイや気のいいダメ男ではなく、金を儲けるためにあらゆる手段を講じる意地汚い人物を演じている。複数の人物から金品を借り、それを使って自転車操業を繰り返しながら、口だけで一攫千金を狙う姿は、いままでのサンドラーのキャラクターを良い意味で破壊し、表現の幅を大きく広げることにつながった。
この作品は、アーティスティックな映画作品を手がけることで台風の目となっているA24との共同配給作品だったことにも注目したい。さらに同時期に撮られたと見られる、大道芸人を題材に、タイムズスクエアでゲリラ撮影されたサフディ兄弟の短編“GOLDMAN v SILVERMAN”でも、サンドラーはアーティスティックな演出のなかでいきいきと鬼気迫る演技を見せている。